怪しい「丈右衛門だった男」(演・矢野聖人)。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第27回最大のトピックスは、「丈右衛門だった男」(演・矢野聖人)の登場ではないでしょうか。佐野政言(演・矢本悠馬)に讒言する、告げ口をする男のことです。

編集者A(以下A):まずは、将軍家治(演・眞島秀和)の狩りに随伴した佐野ですが、獲物を仕留めたにもかかわらず、その獲物が見当たらないという事態が発生します。佐野を案じた意知(演・宮沢氷魚)が一緒に探したものの、獲物は出てこない。ところが後日、佐野の屋敷にある武士がやって来て「ご覧に入れたいものが」といって佐野が放った矢が刺さった雁を持って訪ねてくるわけです。

I:いったい何があったのか、不思議な感じがしました。いとも簡単に屋敷のなかに入り込むことのできる立場の人間なのかと、思ったりもしました。

A:実は、佐野の屋敷に獲物を持参したこの男、かつて平賀源内(演・安田顕)が「人を刺してしまった」際に、眠り込んでいる源内の家にいて人を斬り、源内に罪をなすりつけた丈右衛門と名乗る人物と同一人物だったことにお気づきでしょうか。クレジットには「丈右衛門だった男」とありました。気がつかなかった人も多かったのではないでしょうか。

I:なるほど。「見てしまったのでございます。田沼様がこれを見つけられ、木のうろに隠されるところを」と語っていたのがその男なのですね。確か、源内が書き留めていた『死を呼ぶ手袋』の原稿を一橋治済(演・生田斗真)が庭で火にくべさせていた様子が描かれました。つまり、「丈右衛門だった男」と一橋治済がなんらかの関係にあることが示唆されたということですね。

A:「壮大なる陰謀」が進行しているようです。いったい一橋の目的はなんなのでしょう。

I:劇中第27回の冒頭では、蝦夷地の上知の阻止を嘆願する松前道廣(演・えなりかずき)の話を聞いていました。一橋治済の手には仙台藩の工藤平助(演・おかやまはじめ)筆による『赤蝦夷風説考』が握られていました。「日本の国力を増すには、蝦夷地に考えをいたらせることだ。このまま捨て置くならば。カムサスカの人たちが蝦夷地と一緒になり、蝦夷地がオロシヤの下知に従うように変わり、もはやわがくにの支配はうけまい」(『原本現代語訳 赤蝦夷風説考』教育社新書)という一節があるように、南下をして蝦夷地との交易、さらには領有すら視野に入れるロシア帝国について論じた書籍を一顧だにせず、「政局」に利用しようとする一橋治済の姿が強調される形になりました。

裏で糸を引く一橋治済(演・生田斗真)。(C)NHK

「てい」の進言を田沼意知に建言

蔦重(演・横浜流星)に「一挙五得」を提案するてい(演・橋本愛)。(C)NHK

I:てい(演・橋本愛)が、「一挙五得」という案を蔦重(演・横浜流星)に提案しました。米の値段、身請けのはなしなど、皆がハッピーになることを「一挙五得」と表現したわけです。その口調が味わい深くて私は好きでした。なんだかほれぼれしました。

A:しかも蔦重が、その提案を引っ提げて若年寄田沼意知のもとを訪ねて建言します。「これは商いではなく政(まつりごと)です」という言辞にはインパクトがありましたね。江戸時代を通じて、官学であった朱子学の影響で、「武士が商いにかかわるのは邪道」という意識が植え付けられていたわけですから。

I:田沼政権下の「重商主義的な政策」でやや緩和されていたとはいえ、ていの意見が若年寄に達するとはすごいですね。

A:蔦重が田沼意次(演・渡辺謙)や意知などの幕閣と面会を重ねていることに異議を申したい人もいるかもしれません。でも、平賀源内、平秩東作(演・木村了)、土山宗次郎(演・栁俊太郎)、大田南畝(演・桐谷健太)など、人脈は共有されているわけですから、会っていてもおかしくはないかなと感じています。「史料がないのでは?」「記録がないのでは?」という反論があるかもしれません。でも、蔦重は現代風にいったら「編集者」。やたらと誰それに会ったなど記録には残さなかったとも解釈したりしています。

I:「編集者は黒子だからってことですか?」……。なにはともあれ、「米穀売買御勝手次第」という誰でも米を売ってもいいという法令を出すなど政権も必死の様子が伝わってきました。そうした中で、田沼意知が、蔦重から建言された案を幕閣に披露します。

A:この場面が示唆しているのは、「為政者たるもの庶民の声にも耳を傾けよ」ということなのかと思ったりしました。そして、これまで言及する機会がなかったのですが、この幕閣のシーン、相島一之さん演じる松平康福は、意知の正室の父になりますね……。

蔦重からの案を幕閣に披露する意知(演・宮沢氷魚)。(C)NHK

誰袖の身請けと土山宗次郎。次ページに続きます

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