取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ただの乗り物なのに、不思議と人の心を魅了する自動車とオートバイ。ここでは自動車やオートバイを溺愛することでオーナーさんの歩んだ、彩りある軌跡をご紹介します。
フォードの五代目『マスタング』を愛車とし、仕事に家庭に充実した日々を送る三﨑由湖さん(50歳)。ある日、由湖さんは街中で見かけたクラシックカーに心を奪われます。そのクルマは……。
初めてのクラシックカーは『MGB』。トラブルが交流の楽しさを教えてくれた
30代に入り、美容会社の代表として多忙な毎日を過ごす由湖さん。38歳を迎えたある日、街中で見かけた赤いボディカラーのオープンカーから目が離せなくなります。調べたところ、そのオープンカーはトライアンフの『スピット・ファイア』という希少なクラシックカーと判明します。
「スピット・ファイアは、はじめて「所有したい」、「自分で運転したい」って感じたクルマでした。さっそく購入すべくインターネットでの情報や友人関係のツテをあたったのですが、まったく見つかりません。たまに見つかっても、とんでもない価格が提示されていて……。結局、ご縁は結ばれませんでした」
スピット・ファイアの購入は一旦、諦めたものの、調べることでクラシックカー、特に英国車の魅力にはまった由湖さん。スピット・ファイアとは別に「これは!」と、心に響いたクルマが登場します。
「インターネットでクラシックカーを扱う中古自動車ショップのサイトを見ていたら、きれいなMGの『MGB』が掲載されていたんです。知り合いに英国車時代の『ミニ』を専門に扱うショップの経営者がいたので、一緒に見に行ってもらいました」
由湖さんの興味を引いたのは、スピット・ファイアと同じく英国生まれのオープンスポーツクラシックカー、MGの『MGB』でした。同行してくれたお友達にコンディションを確認してもらったところ、事故の痕跡はなく程度も上々。「問題なし、大丈夫だよ」とのお墨付きをもらい、その場で購入に踏み切ります!
晴れてクラシックカーのオーナーとなった由湖さん。既にクラシックカーに乗っている友人や知人が、お祝いの言葉と共に教えてくれたのは「緊急時の停車のしかた」でした。
「どんなに程度が良くても30年以上、昔のクルマですからね。実際、購入してすぐに燃料ポンプが故障し、出先で身動きが取れなくなる体験をしました。その後も、ひとつ直せばまたひとつ壊れるといった感じで、常に不具合を抱えていました」
クラシックカーを所有することの洗礼に、由湖さんも疲弊し、辟易したかと思いきや……。
「走行中にエンジンが止まったり、出先の駐車場でエンジンがかからなくなったりと、色々な場所で身動きが取れなくなりましたが、その度にタクシーや長距離トラックの運転手といった、見ず知らずの人たちが助けてくれました。エンジンのかからなくなったMGBを一緒に押しながら、場所に即した止まり方のルールを教わったり、時には応援してもらったり……。大変ではあったのですが、楽しくて貴重な経験でした」
トラブルを経験する度に、クラシックカーとの接し方を学び、MGBとの距離が近づくことを実感する由湖さん。不具合を抱えながらも頑張って走るMGBが一層、愛おしく感じられるようになったそうです。
【次ページに続きます】