取材・文/糸井賢一(いといけんいち)

ただの乗り物なのに、不思議と人の心を魅了する自動車とオートバイ。ここでは自動車やオートバイを溺愛することでオーナーさんの歩んだ、彩りある軌跡をご紹介します。

【前編】はこちらに

正弘さんが館長を務める私設ミュージアム。クルマの他、おもちゃと人形を展示し、私設ミュージアムとして日本で最大の集客数を誇る

フォルクスワーゲンの『タイプワン(愛称:ビートル)』を愛車とし、建設会社の代表として多忙な日々を送る横田正弘さん(67歳)。夢だったオートバイの私設ミュージアムを開設したものの、程なく閉館。これまでがむしゃらに働き続けた人生に疑問を持ち始めます。

周囲の目を恐れず、マスタングやポルシェを購入

ビートルを所有することで、輸入車の持つ魅力に気付いた正弘さん。これまで会社の代表としての立場や周囲の目を意識してクルマを購入し、それを疑問に思ったことはありませんでした。

「中学校を卒業してから、ひたすら仕事に励み、所帯をもってからは家族に苦労をかけさせないことを生きがいとしてきました。けれどふと、『自分の幸せってなんだろう?』って思いが浮かびました。もちろん社会のため家庭のため、懸命に頑張ることに不満はありません。ですが充実した人生を送るには、自分の幸せを求めることも必要という考えに至りました」

32歳でビートルを手放した後、正弘さんはフォードの4代目『マスタング』を中古で購入。その3年後に、ポルシェ『911ターボ カブリオレ(930型)』を中古で購入します。

ターボと車両重量の軽さにより驚異的な速さを生み出す911。普段使いでも乗り心地は快適だったそう

「マスタングを購入したのは、アメリカ車の魅力を実際に知りたかったから。911を購入したのは、多くの人が憧れる理由を知りたかったからです。マスタングや911を所有することで、同業者や関係者から『あいつは若いくせに調子に乗っている』と陰口をたたかれるようになりました。でも、これは最初から覚悟していたことです」

もちろん、これまでも好きなクルマを選んでいたのですが、周囲の僻みややっかみを避けるべく、遠慮していました。「これからはどう思われようと、所有することで自身が幸せになれるクルマを選ぶ」と心に決め、その一歩を踏み出します。

過去の失敗を踏まえ、健全に経営のできるミュージアム経営を模索

正弘さんが35歳を迎え、お子さんも大きくなったこともあり、皆で快適に旅行ができるよう、中古のメルセデス・ベンツ『500SL』を増車します。

「500SLを買った辺りから、ダートトライアルやサーキット走行といったモータースポーツを始めました。程度の良いフェアレディZ(初代)と出会えたので、これを購入し、ダートトライアル仕様にしました。2年ほど参加したのですが、結果はふるわず。それでも自動車競技に参加する楽しみを知ることができましたね」

911に触れ、ポルシェの魅力を知った正弘さん。スーパーカーのもうひとつの雄、フェラーリへの興味が俄然、高まり、かねてよりデザインの美しさに惹かれていた『テスタロッサ』を中古で購入します。

テスタロッサで走行会に参加する正弘さん。コーナーでの安定感は高く、サーキットで真価を発揮するクルマと知ったそう

「初めてテスタロッサに乗った時は『こんなに速いクルマあるんだ!』って、驚かされました。どんな回転数からでもグングンと加速する12気筒の粘り強さは、強く印象に残っています。買い換えで手放してしまいましたが、出会いがあればもう一度、購入したい一台ですね」

30歳代の半ばを過ぎた頃、正弘さんの胸中に「オートバイのミュージアムに失敗した経験を生かし、新しいミュージアムを開設したい」との思いが湧きます。会社の業務を熟しながらコツコツとミュージアムの構想を練り、実現に向けたロードマップを作成。十分に健全な経営ができると判断するや、20年間、代表として手塩にかけた建設会社を畳み、ミュージアムの開設に乗り出します。この時、多くの同業者や関係者から考え直すよう説得されますが、奥様をはじめご家族の理解のもと、正弘さんは己の信念を貫きました。

そして1994年。自動車とおもちゃ、人形をテーマとした私設ミュージアムをオープン。自ら館長となり、ミュージアムの運営を本業にします。私設ミュージアムとは、個人の経営する博物館を指します。現在、展示されているクルマやバックヤードに保管されるクルマを含めると、正弘さんの所有するクルマは100台以上! 以降は強く印象に残ったクルマにしぼって取り上げます。

【クラシックカーラリーのとりことなり、世界中のイベントに参戦! 次ページに続きます】

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