文/鈴木拓也

筆者は、長年の頭痛と肩こりを治すべく、かれこれ20人の整体師に通った経験がある。
しかし、これほど多くのプロの施術を受けながら、頑固な不調はなかなか改善されない。
先日は、筆者の住まいからほど近い奈良の整体師、奥中伸さんのもとを訪れた。
これまではどの整体師も、症状を伝えると、頭や肩に手を当ててきた。しかし、奥中さんは、太ももやみぞおちにアプローチしてきた。不調を感じる部位とはぜんぜん違うのに、なぜか症状が和らいだので驚く。
また、姿勢についても指導を受けたが、本質的なのは「骨盤」だという。よく姿勢改善の手引きで「骨盤が立つ」といった表現を使うが、奥中さんによれば、「骨盤とは回転するもの」なのだそうだ。
「回転」と言ってももちろん、ぐるりと360度回るわけではない。前傾したり、後傾したりで角度的にはいくらか動きはするだろうから、「傾斜」が適当な言葉ではと思ったが、「回転」がふさわしいと力説された。
ほかにも、多くの話をうかがったが、情報が濃くて新味があり、いたく興味を引かれた。かつ、1回で症状に改善が見られたのは嬉しい。21人目にして、本当に期待と希望を持ちながら帰途についた。
すべての出発点は骨盤にある
前置きが長くなった。その奥中さんだが、昨年8月に著書を出している。書名は、『読むと「全自動」で健康になるすごい本』(KADOKAWA https://www.kadokawa.co.jp/product/322403001373/)。筆者に語ったお話のエッセンスが詰まった1冊だ。今回は、その一部を紹介しよう。
本書の冒頭は、筆者も直に話を聞いた骨盤の「回転」だ。イラストが載っているので、概念がつかみやすくなるよう、ここでも取り上げたい。

ぱっと見てわかるように、左は猫背になっていて悪い例、右は好ましい例。しかし、違うのは骨盤の角度だけなのに注意。そして、「すべての出発点は骨盤にあります」「まずは骨盤が回転する事を知ってください」と、奥中さんは記している。
胸を突き上げて肩・首のコリを改善
筆者が、奥中さんのもとで練習を繰り返したものに、骨盤の回転とともに「胸を突き上げる」というのがあった。
本書でそれにあたるのが、以下のイラストとなる。

骨盤が正しく回転すると、赤い矢印のイメージで、胸骨の部分が斜めに突き上がった感じになる。
このとき何が起きるかというと、肋骨も上がる。これによって、「とても呼吸がラクになる」という。また、肋骨が上がっていない人は、腕が「落ち放題」となって、首・肩の筋肉を引っ張り、コリが生まれる原因となる。それが、肋骨が上がることで、「腕は落ちなくなるので、コリはなくなります」と、奥中さんは解説する。さらに、何か特別な呼吸法に励まなくても、自然と望ましい呼吸になるとも。
猫背が絶対いけないわけではない
猫背は良くないとは、世間では常識のようになっている。
しかし奥中さんは、「猫背は猫背で必要な役割もあります」と説く。例えば、疲れてリラックスしたいときなどは、猫背になってもいいそうだ。
むしろ良くないのは、骨盤は丸まっているのに、上の背骨だけ無理に伸ばしている状態。これは「最悪」だとし、次のように解説する。
これは「猫背は悪いものだ」という思いがそうさせます。
そして私たちが子どもの頃から聞いてきた「背筋を伸ばしなさい」というあの教えも加わり、背骨だけ伸ばしてしまうのです。(中略)
背筋だけ無理に伸ばしてシャキッとさせた姿勢でいると、体は次第に言うことを聞いてくれなくなります。(本書85pより)
そして、猫背には正しいやり方があるという。まず、下のイラストのようにしゃがんでみて、それから猫背になってみよう。

「猫背になれ」と言われると、ほとんどの人は、うつむいて背中を丸める。しかし、これは間違い。骨盤を起点とし、お尻を回し下ろす感覚で猫背になって、結果的に視線も下になるのが、本当の猫背だ。
これは簡単に思えて、長年の習慣が身についた我々には意外と難しい。筆者も、奥中さんのもとで何度かやってみたが、どうしても上半身に無駄な力が入ってしまう。ともかく、骨盤を意識するのがコツで、慣れるまでトライすれば、だんだんとできるようになる。
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世の中に数ある整体理論の中には、難しい体操や動作をするものがあるが、奥中さんのメソッドは極めてシンプルだ。それでいながら、慢性のコリが改善する、アンチエイジングになるなど効果は抜群。興味を持ったら、ぜひ一読して欲しい。
本書内イラスト:おかやまたかとし
【今日の健康に良い1冊】
『読むと「全自動」で健康になるすごい本』

定価1540円
KADOKAWA
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。
