ホーム入居をあっさりと受け入れた義父

「プライドの高い義父なので、絶対拒否するだろうと、主人と義弟が説得に行ったのですが、拍子抜けするほどあっさりとホーム入居を受け入れました。主人も義弟も驚いていましたが、一人暮らしの限界は、本人が一番身に染みていたのではないかと思います」

でも――と、佳代子さんは小さくため息をついた。

夫は、父親が有料老人ホームに入ることを親戚に知らせるときに、「佳代子が決めた」と報告したのだという。

「“立派な”息子が二人もいながら、両親をホームに入れると世間体が悪いと思ったんでしょう。それにしても義母がホームに入って10年近く、いまだにそんな感覚だったとは」と、佳代子さんは憤慨する。

その一方で、「母親から忘れられたというやり場のない怒りや悲しみを、私にぶつけたのかもしれない」とも推しはかる。義父母の老いに向き合ってきた佳代子さんからは余裕さえ漂う。

ところがそんな佳代子さんにも、解せないことがある。

義父は義母と同じホームに入ったのに、一度も顔を見たいと言わないというのだ。

「認知症の義母は仕方ないにしても、義父は義母のことを忘れているわけではないのに、なぜ顔を見に行こうともしないのか、まったくもって不可解。夫婦って不思議ですね。こればかりは、私もそうなってみないとわかりませんが」

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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