
2025年5月14日、人材大手のインディードリクルートパートナーズは2026年春に卒業予定の大学生の就職内定率が、5月1日時点で75.8%だと発表。現在の採用日程になった2017年卒以降で最も高いという。空前の人手不足で、採用が前倒しになっていることもわかる。
雅史さん(62歳)は大手商社を定年退職して2年になる。「多様性の時代になるほど、大企業のブランドは強くなっていると感じる。僕たちの時よりも難しくなっているはず。仕事は大変だけどやりがいはある。定年退職してから、あの会社に人生を捧げ、燃え尽き気味だ」と言う。定年後、何か仕事をしようと思っていても、やる気が起きず先延ばしにしているという。
【これまでの経緯は前編で】
結婚しなかったから、出世できなかったのではないか
30代で係長になることが、出世レースの先頭チームだったという。
「海外勤務、事業や拠点の立ち上げに関わるといった実績があるなど、先頭チームはいい仕事をしており、揃いも揃って国立大学卒。最低でも5教科7科目の受験勉強をやり込んだ男たちは、出来が違う。悔しいけれど、理解も手も早い。ガッツもあるんです」
気持ちで負けてはダメだと、仕事にゴルフに邁進したが、出世レースに翳りが見えたのは35歳のとき。
「明らかに仕事の規模が小さくなってきたんです。当時、海外企業と共同の大きなプロジェクトにいたのですが、途中で別のプロジェクトに異動になりました。あとは、順調だった仕事の動きが鈍くなった。同期の中には課長代理になっている人もいるのに、僕は係長のまま。海外赴任の話も来ず、海外出張も減った。おかしいなと思っているうちに、地味な同期と役職が横並びになった」
決定的だったのは、36歳での子会社への出向だという。
「勉強してこいと言われましたが、社員数百人規模の会社に行くのは惨めなものでした。業績の立て直しという一大ミッションがあればいいですが、それなりに順調な会社なんですよ。でも、僕が行く限りは、売り上げと利益率を上げようとやる気に燃えて向かいました」
子会社の社員と本社の社員は、別世界のように雰囲気が違う人ばかりだったという。仕事への姿勢、身なりや言葉使い、読んでいる本、趣味や興味も雅史さんに馴染みのないものだった。
「のんびりしたいい会社なのですが、覇気がない。彼らに自信をつけたいと、業務の傍ら、新規事業の計画を上に相談しても首を縦に振らない。昔から僕のことを知っている部長に相談したら、“今回の出向は、お前にちょっと休めという意味もある。プライベートも充実しないと仕事ができるとは言えない”と言われました」
その時に、「結婚しろということだ」と気づいた。
「同期で課長代理になった奴らは、全員結婚している。しかも妻は英語が話せる容姿端麗な女性ばかり。僕は相変わらず独身です。付き合う女性は何人かいましたが、英語もできないし、妻になるタイプでもない」
出向している3年間に見合いをしたが、話がまとまらなかった。
「今はもうないですが、ウチの社員向けの結婚相談所があったんです。そこには、英語が堪能で、名門女子大を出ている女性も登録していました。そういう人に申し込んでも、35歳以上だと断られてしまう。今思えば出世目的の結婚ですからね」
独身のまま、本社に戻っても華々しい活躍はできなかったが、40代半ばで課長代理には昇進できた。それからも子会社に行ったり海外赴任をしたりしているうちに、時間はあっという間に流れる。
「40代は出世も諦めていた。周りは子供の中学受験に躍起になっており、“息子が部長の後輩になりました”などの声が聞こえる。異世界だと思ったのは社内に“〇〇(名門中高一貫校)父親の会”というサークルができていたこと。悔しいかな当時、その会長を務めていた人物は、今の役員です」
雅史さんの出世熱はもう冷めていた。
「53歳の時に出向になってから、気持ちが自由になって、登録したまま放置していたSNSを始めてみたんです。大学の後輩にあたる10歳年下の女性と親しくなり、バイタリティあふれる彼女が主催する旅や飲み会に参加して、新しい世界を見たような気がしました」
【定年後に自分の幸せを探そうにも、やり方がわからない……次のページに続きます】
