孤軍奮闘するヨメ
夫も義弟夫婦も“戦力”にはならない。「結局、私が仕事のない日に孫を保育園に送ってから、電車で主人の実家に行き、義父の様子を見て、義母のホームに行きます。義父の食事は、高齢者向けの宅配弁当を利用していますが、掃除や洗濯は私がやっています。それから急いで帰って、夕食の支度、孫のお迎えと、一日中走り回ってる感じですね」。
週末は、夫と再び義父宅に行き、家の片付けにも取りかかっているという。義母がホームに入居するときに、身の回りのものを片付けはじめると、あまりのモノの多さにがく然としたことが、片付けのきっかけだと苦笑する。
「もののない時代に育ったせいか、義母はものを捨てられない人で、着物や洋服、バッグや靴、引き出物の食器など……ものすごい量のものであふれていました。今から少しずつ片付けておかないと、あとが大変なことになるとゾーっとしました。義母が家にいる間は手を付けられなかったので、今なら捨てられると。主人は『お母さんのものを勝手に捨てるな』と言っていましたが、そんなことは言っていられない状態だとわかってきたようです。実の娘なら思い入れがあって捨てられないのでしょうが、嫁だからなんの執着もない。毎回ゴミ袋が何袋にもなるくらいですが、まだまだ大量のモノがあります」。
そんな佳代子さんの苦労を知るはずもない義母は、「あなたには家にある着物も宝石も全部あげるわね」と無邪気に、いや恩着せがましく言う。さらに、ホームの職員には「長男には迷惑をかけているから、毎月100万円渡している」と言っているらしい。
後ろめたい息子たち
一方、息子たちも母親をホームに入れたことを後ろめたく思っているようで、「ホームでみじめな思いをさせたくない」と、母親に多額の現金を渡していたのだという。
「義母が他の入居者にお金を渡していたのを、ホームのスタッフが気づいて発覚したんです。認知症の義母に、お小遣いといって多額の現金を渡していたことに呆れました」。
ほかにも、義弟夫婦は、まるで“罪滅ぼし”のようにさまざまなモノを義母に贈って来るという。「それが、ちょっとズレているというか……。スマートフォンを買ってあげて、ラインで写真を送ってきたり。認知症の義母が最新の製品を使いこなせるわけがありません。結局写真を見せて、返事を打つのは私。本当に義母が返事をしていると思っているんでしょうかね」。
何もわかっちゃいないと、佳代子さんはため息をつく。
【その2に続きます】
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。