母の病気は直腸がん。一度目の告知では気丈だった母親だったが転移が見つかった時に弱音を吐くようになり……

母親の病気は直腸がん。すぐに手術が行われ、入院することになります。

「最初は気疲れでの不調かと思っていました。でも母親は親を直腸がんで亡くしていたので、その病気に詳しく思い当たることがあったようで、告知を受けた時も落ち着いていたんです。それよりも、父親が実は取り乱していたみたいで。私や弟の前では気丈だったんですが、職場で倒れたんです。作業中に倒れたので頭を打ってしまい、父親も入院することになりました。両親の入院は同時期だったし、まったく別の病棟だったのでバタバタでしたよ。家のことも弟と2人で全部しないといけなかったから。あの時は忙しくて悲しんでいられる時間もありませんでした」

母親の入院は3か月ほど。その後3か月に一度の定期検査があり、退院から1年半後に肺に転移が見つかります。思いもよらない転移で母親の心は弱ってしまったと言います。

「まったく予想していなかったことで、1度目は気丈だった母親ですが、2度目の告知後に初めて私の前で泣いたんです。『私がいなくなっても強く生きていきなさい』と言われました。もうたまりませんでしたよ。母の前では泣かなかったけど、友人の前で大泣きしました。

その後、父と弟と話し合って、できるだけ母の側に交代でいることを決めました。私が大泣きした友人は母親を病気で亡くしており、『できるだけ一緒にいて、考える時間を作らせてはいけない』とアドバイスを受けていたから。

別の場所ではどうかはわかりませんが、父と弟と私の3人はお互いの前で一度も泣いていないんです。家族の前で取り乱すことで、絶対母親は大丈夫だという強い思いが崩れる気がして怖かったんだと思います」

その後、母親の2回目の手術は無事終了。1か月の入院を経てそれから3年半、母親は現在元気に毎日を送っているそう。「母親の病気を経験して、家族の絆は強くなったと思います。あんなに不仲だった両親が今は父親も定年になったのでよく2人で近所に出かけたりしているんです。弟とも大人になってからはあまり連絡を取り合わなかったんですが、今は母親のことをよく話し合っています。今の家族の共通の願いは『母親に精一杯生きてもらうこと』。その思いで団結しています」と奈々子さんは語ります。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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