取材・文/ふじのあやこ

近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。

「父親は自分のことをまったく言わないタイプ。両親の離婚の時でさえ気持ちを語っているところを見ることはありませんでした」と語るのは、夏美さん(仮名・37歳)。彼女は現在、埼玉県で6歳の子供を育てながら、近所の飲食店でパート勤務をしています。鎖骨までの色素の薄い髪に、化粧気のないものの大きな丸い瞳ときめ細かい肌が印象的です。服装は黒のロングワンピースを着ており、Iラインのシルエットからは華奢さが目立ちます。

寡黙な父親が姉の結婚で見せた本音

夏美さんは埼玉県出身で、両親と2歳上の姉がいる4人家族。父親はサラリーマン、母親は近くのスーパーでパート勤務をする兼業主婦で、どこにでもある普通の家庭だったと言います。

「両親は同じ職場の元同僚で同い年、結婚は早かったみたいです。私は26歳の時の子供ですから。小さい頃は夫婦仲も家族仲も良かったと思います。

でも、父親以外は全員女なので、父親はどこか小さくなっていたというか、旅行先もすべて女3人で行き先を決めたり、家族での外食も父親に発言権はなし。父親が候補を出していた記憶もまったくありませんね」

父親は160センチ台と小柄で、母親のほうが少しだけ背が高かったこともあり、父親に男らしさを感じたことはなかった。小さい頃に夫婦げんかを目撃した時も、怒りをぶつける母親の声は響いてきたものの、父親の声は一切聞こえてこなかったそう。そういえば……と付け加えるように夏美さんは語ります。

「父親が怒ったところを一度も見たことがないかもしれません。夫婦げんかでも、興奮している母親を冷静になだめているような感じだったし、姉も私も『ちゃんとしなさいよ』と注意を受けることはあったんですが、本気で怒られたことは今までありません。

それに、姉とは2人で会話自体をあまりしている感じはなかったです。姉はちょっとヤンチャなタイプというか、非行とまではいかないんですが、高校生の時から友達の家に泊まりに行くといってしばらく帰ってこないような人で……。そんな時さえ父親は普段通り、3人の食卓にも違和感を持っていなさそうでした」

夏美さんは高校を卒業した後、希望していたブランドの販売員になります。働き出してからも実家から通っていたと言いますが、貯金をして20歳を目標に一人暮らしを計画していたとか。そんな中、姉の結婚が決まり、家族4人で最後の食事に出かけた時に、父親の寂しさに触れたそうです。

「その食事会では誰? って思うほど、父親が話していたんです。家族の思い出を振り返ると思いきや、ここの料理はおいしいとか、どうでもいい話ばかり。女3人とも逆に黙ってしまうくらいでした。

その食事会の最後に姉と2人きりにしてあげたんです。その時の詳しい話は2人ともしないんですが、姉は『泣いた』って言っていました」

母親から切り出された熟年離婚。父親との2人暮らしがスタート。次ページに続きます

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