●「信長以後」にはありえない光秀田おこしシーン

I: 第三話では、おさらいすべきシーンはありましたか? 私は道三の「操り人形には毒は盛りませぬ」というセリフにしびれました。大河がブレイクするには、話題になるセリフの存在が不可欠ともいわれます。「梵天丸もかくありたい」(『独眼竜政宗』)や「上げ潮じゃあ~」(『秀吉』)や、最近では「黙れ! 小童(こわっぱ)」(『真田丸』)というのもありました。「操り人形~~」じゃだめですかね?

A: 平成初頭に「担ぐ神輿は軽くてパーがいい」というオフレコ発言を抜かれた政治家がいたことを思い出しました(笑)。土岐頼芸もおとなしくしていたら権威だけは与えられるのですがね。我慢できないんでしょうね。しかし、「本木道三」は、単純にかっこいい。第二話の土岐頼純と対峙するシーンもそうですし。やがてくる道三ロスが心配です。道三スピンオフドラマを別途制作いただきたいとまで思いますね。

I: でも、尾美としのりさん演じる土岐頼芸が鷹を描くシーンって時代を象徴する場面ですよね。武力とそれを維持するための経済力がものをいう時代に、文芸にうつつをぬかしている。武士が勃興した時代から時をつないで来た名門土岐家の盛衰に思いを馳せたい場面でした。結果的に土岐家は頼芸の代に没落しますが、彼らが描いた「土岐の鷹」図は現代に伝わっている。その「鷹図」を描く場面を挿入してくる脚本・演出には敬意を表したいと思います。

鷹図を描く土岐頼芸(演・尾美としのり)

鷹図を描く土岐頼芸(演・尾美としのり)

A: 確かに、名場面といっていいシーンでしたね。この時代は新旧交代の時代でした。第三話で光秀が田おこしをするシーンが何気なく描かれていますが、この場面は「信長以前」の象徴的な場面。信長は、兵農分離を推進して、農繁期も合戦できるようにした。だから「信長以後」にはありえないシーン。「信長以前」と「信長以後」では、光秀の年齢も上がり立場も変化しますけど、時代が変化していく様も見逃せないですね。

I: 第四話以降の見どころはどんな感じでしょうか。

A: 岡村隆史さん演じる菊丸の存在が気になります。なんだかただの農民ではないような気がしています・・・・。今後は三好長慶や細川晴元など、大河であまり見ない面々も登場します。鉄砲の調達=経済力の描き方も気になりますが、さしあたっては、斎藤道三と息子・義龍の確執がどう展開するのかでしょうね。ほぼ同時期に奥州では、伊達稙宗と晴宗親子が争っています(伊達政宗の曾祖父と祖父)。甲斐では、武田信虎と晴信(信玄)が争いますから、親子といえども容赦ないのが戦国時代。

I: 親子の諍いから目が離せないのですね。

A: 取材を重ねた範囲で結論づけると、長良川の戦いの回は、大河に新たな伝説が刻まれる回になるかと思います。脚本はもちろん、意欲的な演出、野外セットに象徴される美術の方々の活躍、さらに道三役の本木雅弘さんの真摯な取り組み、義龍役の伊藤英明さんもムードメーカーとして現場を盛り上げているそうです。光秀役の長谷川博己さんも座長としての役割をしっかり果たしているとか。

I: 現場の雰囲気がいいってことですね。それはいいドラマになりますよね。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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