取材・文/池田充枝
須弥山の四方にいて仏教世界を守る神、四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)。
このうち北方を守護する多聞天は、「毘沙門天」の名で単独の像としても造像、信仰され、四天王のなかでも特別な存在です。
近年、毘沙門天像の研究発展を資する優品が相ついで発見されていることで、大いに関心が高まっています。
毘沙門天像の優品が一堂に会する展覧会が開かれています。(3月22日まで)
本展の見どころを、奈良国立博物館の上席研究員、岩田茂樹さんにうかがいました。
「本展では、日本の毘沙門天像のなかから選りすぐりの優品の出陳がかないました。なかでも半世紀ぶりの展覧会出陳となる国宝・鞍馬寺毘沙門三尊像や、アメリカから里帰りする毘沙門天像など、見逃せない作品ばかりです。
まずは鞍馬寺所蔵の国宝、毘沙門三尊像にご注目ください。
トチノキ製の一木彫像です。左手をかざして平安京を見はるかすポーズは他に類例がありません。ただし造像当初のかたちについては検討の余地があります。冠にある宝珠は福徳神としての性格を象徴すると考えられ、どっしりとした体型に力強さがみなぎっています。
修理時に像内から発見された経典の奧書から、大治2年(1127)の作とわかります。前年に鞍馬寺本堂は焼失しているので、火災で失われた像の再興でしょう。ほっそりした体型、穏やかな表情はこの頃の特徴。
毘沙門天と同時期の作で、同じくトチノキから刻まれています。吉祥天像に比べ抑揚に富む体型で、左手は経典を収めたとされる筺(はこ)を持っています。美豆良(みずら)という古代の少年の髪形を示しています。
同じく国宝に指定された東寺の毘沙門天立像をご覧ください。正面に鳥形を表す四面宝冠(しめんほうかん)、輪を連ねたような籠手(こて:腕の防具)、外套状の長い甲(よろい)を着ける西域風の異色の姿で、両脇にニ鬼形が侍り大地から涌出(ゆじゅつ)した地天女(ちてんにょ)の掌(たなごころ)に立っています。このような像容を「兜跋(とばつ)」形毘沙門天像と呼び、その原点に位置する像です。
この像は珍しい坐像の毘沙門天像です。岩座は後補で、当初は地天女と二鬼を配したと推測されていますが、さらに検討を要するところです。胸に甲(よろい)ではなく花飾りを表しています。
これは、近年再発見された重要作例の一つです。島根県奥出雲町の岩屋寺(いわやでら)旧蔵。古写真によると吉祥天と善膩師童子像を配した三尊像であったとわかります。像内に年紀等の銘文があり、兜正面、肩、腹に表された龍や獣の面、各所の装飾性豊かな彫りが特徴です。
優品揃いの本展で、皆さまを魅力にあふれた毘沙門天像の世界に誘いたいと思います」
まさに毘沙門天のオンパレード!! 迫力満点の展覧会にぜひ足をお運びください。
【開催要項】
特別展 毘沙門天 北方鎮護のカミ
会期:2020年2月4日(火)~3月22日(日)
会場:奈良国立博物館 東新館・西新館第1室
住所:奈良市登大路町50
電話番号:050・5542・8600(ハローダイヤル)
https://www.narahaku.go.jp/
開館時間:9時30分から17時まで、金・土曜日は19時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし2月24日は開館)、2月25日(火)
取材・文/池田充枝