
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)で松前廣年を演じているひょうろくさんの取材会が開かれました。今回は私が参加しました。
編集者A(以下A):新進気鋭の性格俳優? バラエティのひょうろくさんを知らない方にはそういう風に受け止めた方もいるかもしれません。一見、棒読みのような台詞回しも実は、遊郭の中での「テクニック」。花魁誰袖(演・福原遥)との駆け引きに翻弄されているようで、実は誰袖を手玉にとって楽しんでいる、というふうにみえなくもない。
I:そうですか? あれはどうみても誰袖に翻弄されているとしか思えませんが……。実際、ひょうろくさんもこんな話をしています。どうぞ。
松前廣年は位が高い方ではあるんですけど、お兄さん(松前道廣/演・えなりかずき)が怖いので、粛々と生きています。絵を描くことが本当にお好きな方だったらしいので、絵が好きなんだぞ、と思いながら演じるようにしました。あとは、花魁がいるような場所とかにあんまり慣れていない方ということもあり、おどおどではないんですけど、女性に翻弄されてしまうといいますか、そんな様子を演じました。
A:あ、なるほど。あれは本当に翻弄されているんだ(笑)。ひょうろくさんは、「どうして松前廣年にキャスティングされたと思いますか?」という質問にこんなふうに答えています。
僕、勝手に、えなりかずきさんと顔が似ているからかなぁなんて思っていました。昔よく、えなりさんに顔が似ているねと言われていたので。だから、えなりさん演じる松前道廣の弟役と聞いて、あっ、それでなのかなと勝手に思っていたんです。
A:ひょうろくさんの演じる松前家・家老松前廣年の兄が、えなりかずきさん演じる松前道廣。えなりさんの取材会では、「ひょうろくさんとはDNAで共通するものがある」といっていました。
DNAで共通するものですか?? えなりさんと共演させていただいて、僕もめちゃくちゃ嬉しかったです。先日もご飯に誘って頂いて、「弟君(おとうとぎみ)」と呼んで下さったりして、なんか本当に優しい方なんだなと。大ベテランの方なので、僕もどこまで話しかけていいのか分からなかったんですが、話しかけても大丈夫な雰囲気で接して下さるというか。だからけっこう、僕からもすごく話しかけやすかったです。僕も小さい頃、『渡る世間は鬼ばかり』を毎週見ている家だったので、それも伝えられてすごく嬉しかったです。
I:そんなひょうろくさんですが、撮影現場は熱かったようです。
最初、たぶん僕が台本の読解力がないというか、文字にあったら文字のまんまやってしまっていて。「ここで見る」とト書きにあったら、ただそっちを見る、みたいにしてしまっていました。すると演出の方がいらして、「このシーンはこう、ここでこういうことがあって、裏でこういう感情があるから、こういう感情で相手を見た方がいいよ」とか、「怒るにしてもこういう感情があるからこう怒った方がいいよ」といったことを教えて下さったんです。こんなことを考えてるんだ! とびっくりしました。僕は「怒る」とあったら、なんかこう、ただ昆虫みたいに怒って見せていたのですが、ちゃんとその奥の奥とか、そこから何が読み取れるかとか、みなさん考えて演じているんですね。でもやっぱり、聞いても難しいんですけど。何回か言われて、こいつたぶんこれが限界だろうみたいなのもあったんだろうなと思っています。毎回、ちょこっと、ここはこういうことを意識してみてねとかいったことを教えて下さっていました。でも、他の俳優さんに聞いたら、そういうことを言ってくれるのはすごくこうありがたいことなんだとわかりました。普通はそんなこと教えてくれないらしいんです。演じる方の責任もあるから、あんまり言ってくれなかったりもするから、教えて頂けるなんてありがたいね、って。こうやって教えて頂けることが当たり前じゃないんだとわかりました。助けてもらったことがすごく嬉しかったです。
A:いい話ですね。なんだかほろりときますが、「昆虫のように怒る」ってのはどういうことなんでしょう(笑)。
I:私は、でんでんむしの角が出る、みたいな雰囲気で考えていました。
絵師としても名を残した廣年
A:さて、松前廣年は「蠣崎波響(かきざきはきょう)」の名で絵を描いていたことでも知られています。有名な『夷酋列像(いしゅうれつぞう)』は、劇中からもう少し時間が経過した「クナシリメナシ」の戦いの際に、松前家に協力したアイヌ酋長を描いたものになります。ひょうろくさんは、蠣崎波響についても語ってくれました。
蠣崎波響の作品はインターネットで拝見しました。ああ、こういう感じかぁって。僕もイラストなどを描くのが好きなので、絵を描くようなシーンがあってもいいなぁなんてちょっと思っていたんですけど、でも本当の蠣崎波響の絵を見て、ああ、全然レベルが違うなぁって(笑)。自分のは趣味のお絵描きなので。繊細さが違うというか。自分もあんなふうに描いてみたいなと、ちょっとアイディアを頂いた感じです。
I:さて、初めての大河ドラマ出演ということで、周囲からはかなり注目されていたようです。
親戚と、友達のおばちゃんとかが大河出演を喜んでくれました。登場回の4週間ぐらい前から、いつ出るのみたいなことを毎回聞いてきて。僕もあんまり言えないので、楽しみに見てくださいと返事をしていたんですが、毎週、今週は出なかったね、とか言われたりして。告知が出た時に、「あ、もう来週なんだ」と連絡をくれて、「頑張れ廣年!」と言ってくれたりしました。周りの反響から、改めてなんかとんでもない作品だなと思いました。僕自身は未だに、緊張もしますけど、実はあんまりわかってないというか、すごいことなんだぞって思いながら……台風の中にいる感じです。外から見たらめちゃくちゃでかい台風なんだけど、中にいるとあんまり気付かないみたいな。
A:最後にバラエティーのお仕事との違いに触れてくれました。
バラエティの仕事も俳優の仕事もそれぞれ緊張するというか、そこは変わらないです。バラエティなどは準備できない怖さがありますね。考えても結局、自分の思い通りになるわけではなくて、どうなっていくんだろう、というのがあります。演技の仕事は逆に、やるべきことがきっちり決まっていて、その通りにちゃんとしないといけない。バラエティだと、失敗したことが逆に良さになることもありますが、演技の方だと失敗はただの失敗というか。失敗したら、はい、もう1回いきまーすみたいになっちゃうので。やることが決まっている分、その通りにしなきゃ、失敗しないようにしなきゃというのがあります。僕自身が自宅などでドラマなどの作品を見ている時とかに気づいてないことでも、スタッフさんや演者さんはいろいろと考えてやっていらっしゃって、そこを楽しんでこの仕事をされているんだろうなというのがわかりました。でも僕は楽しむ余裕が本当になくて。準備不足だったのかな。廣年ってどんな人なのかというのをもっと考えてやればもうちょっと良かったのかなぁ、最初からやり直したいなぁ、とか思ってしまいました。
I:見る側からしたら、今回のひょうろくさんは廣年役にハマっているなと感じました。
A:「最初からやり直したい」ということですが、実際問題それはかなわぬこと。大河ファンの視点からは、次回作に期待! ということになります。
I:熱心な演技指導も、その布石と受け取りたいですね。
●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
