ライターI:『麒麟がくる』1・2話計120分。どう受け止めていますか?
編集A: 端的にいって、やはり脚本がいいとドラマが締まる、ということに尽きます。
I: 1年以上前から、〈名作大河『太平記』の池端俊策さんが脚本担当だから〉と珍しく期待していましたよね。
A: 脚本がいいということに加えて、しっかりした野外セット、斬新な演出、カラフルな衣装など、どれをとっても〈今後の展開が楽しみだ〉としかいえません。久方ぶりのわくわくですね。前半生が謎に包まれている光秀が美濃や堺にいるのが違和感なく受け入れられるのは、やっぱり脚本の力ですよね。
I: カラフルな衣装については、「戦国ってあんな色彩豊かだったの?」とネットを中心に議論を呼びましたけど。
A:戦国時代って、井伊とか真田の〈赤備え〉だとか、黄母衣衆、赤母衣衆とか色彩豊かですよね。緻密な考証で知られる黒沢明監督の『乱』なども原色の衣装が目を引きました。『麒麟がくる』の衣装は、黒沢監督の長女・和子さんが担当です。戦国の色づかいってこうなんだーって見ていると楽しめますよ。
I:いろいろと「リアルな戦国」が出てくるところはどうですか? 野盗が登場したり、乱取りで売買のために縄をかけられる人々、荒れる京都に汚れた孤児、関所で関銭を徴収する僧兵など、あげたらキリがない。女性が座るシーンも立膝だったり、細かいですよね。
A:天文年間に在位していたのは、後奈良天皇ですが、歴代の中でもっとも朝廷が貧しい時代。資金不足で10年間も即位式ができなかった。そういう細かい描写があるのはすごいですね。立膝は、演じる俳優さんはたいへんだと思いますが(笑)。
I: そういえば、稲葉山城のセットもすごいですよね。野外はもちろん、屋内の階段などしっかり再現されていますし。合戦シーンはどうでしたか?
A:第2話の合戦は、斎藤道三と織田信秀の間の「加納口の戦い」を描いていますよね。これは『信長公記』に記されていますが、史実をしっかり描くべきところは忠実にしかも濃厚に展開されているところが『麒麟がくる』の深いところだと思います。信秀の弟の討ち死にもしっかり出ていましたし、参陣していた熱田大神宮宮司の戦死にも触れられている。
I: ドローンなどの最新撮影機材を駆使しているというのは、どうですか? 制作サイドは、〈昔からヘリやラジコンヘリで同じような撮影はやっている〉と謙遜していますが。
A: 確かにそうなんですが、〈ドローンなど最新機材で撮影された迫力の合戦シーン〉と聞くと、俄然興味を引きます。実際に、合戦シーンは迫力満点でした。女性の視聴者がどう感じるのかはわかりませんが。
●本木雅弘演じる斎藤道三の渾身の演技を見逃すな!
I:俳優陣はどうですか? ネットでは声優の大塚明夫さんの登場が話題になりましたが。
A:個人的には第一話冒頭の野盗統領を演じた本宮泰風さんがツボでした。頬当てをしてましたから誰だかよくわからない感じでしたけど。
I:任侠ものが好きなのがばれますね。
A:(笑)。ともあれ、前半で注目なのは、断然、本木雅弘さん演じる斎藤道三です。1・2話で光秀は、道三のことは嫌いだ! といっていますが、そのうちその人間的魅力の虜になるんじゃないかと。やがてくる長良川の戦いの回は、「神回」になると予想しています。
I: 1991年の大河ドラマ『太平記』第22回「鎌倉炎上」のような「神回」になるということですね。
A: その通り! そういえば、本木さんは、『太平記』では、後醍醐天皇側近の千種忠顕役で出演しています。隠岐に流された後醍醐天皇が冬に火桶を求めたシーンが特に印象に残っています。本当はもっと早く戦国武将を演じる本木さんが見たかった・・・・。
I: 第2話で、土岐頼純と対峙するシーンの迫力たるや・・・・。あのシーンもリアルな戦国の表現だと思いますし、「本木道三」が伝説になると予感させられるシーンでした・・・・。さて、話題を変えます。まだ先が長いですけれど、本能寺の変はどのような展開になると思いますか?
A: 本能寺の変はさすがにまだ早いのでは(笑)。ただもしかして伏線? というような気になる個所はありました。後に信長を裏切ることになる松永久秀との出会い、叡山の関所、そして、道三に〈侍大将の首を獲れ〉といわれた光秀に背負われた首などです。「首」のシーンは、几帳面だったいわれる光秀の性格を表しているとみました。後の築城などで光秀は几帳面な性格だったと指摘されていますからね。その生真面目な性格がやがて信長との間に溝をつくっていくのかと。
I: ヒロインである戦災孤児・駒との第1話でのやり取りはどうでしょうか。
A: 麒麟とは何かを語った第1話のシーンは、本能寺の変までつながっていると感じました。リアルな戦国の表現と合わせると、従来の単純な「怨恨説」や「非道阻止説」などは、排除されるんだろうし、「信長史観」とは異なる展開になるんだろうなって思います。それも含めて年末まで楽しみたいと思います。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。
●ライターI 月刊誌『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり