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前回は、漢方薬を飲むのと同じくらい大切な「養生」についてご紹介しました前回の記事「そも漢方とは何か?~漢方薬を飲むのと同じくらい大切な「養生」のすすめ」。最終回となる今回は、西洋薬とは異なる漢方薬ならではの上手な活用の仕方を、慶應義塾大学の渡辺賢治先生に具体例を挙げていただきながら紹介しましょう。

漢方薬を飲むタイミングについて

日本では、一般的に漢方薬を飲むタイミングは食前(食前30分程度)または食間(食後2時間程度)の空腹時とされています。一方、西洋薬の薬では食後服用が多いような気がするのですが、漢方薬はなぜ、空腹時の服用がすすめられているのでしょうか?

「漢方薬の吸収に関わる問題です。理由としては大きくわけて2つあります。ひとつめは、漢方薬が腸内細菌のはたらきによって吸収されることに関わります。漢方薬が吸収されるときには、配糖体(はいとうたい)と呼ばれる成分が腸内細菌によって分解されることによって、体内に吸収されるようになります。

わかりやすくいうと、漢方薬を構成している配糖体の一部である糖が、腸内細菌のえさになります。そのため、食後であると腸内細菌に対する栄養分が豊富にあるため、漢方薬の配糖体の分解が促進されず、漢方薬の吸収が悪くなってしまうといわれているのです」

食後だと、漢方薬の吸収が悪くなってしまうのですね。

「2つめの理由としては、漢方薬の成分によっては、食後の方が吸収が良くなりすぎて副作用が起こりやすくなる可能性があるからです。副作用の出やすい成分においては、空腹時に飲むことによって副作用を軽減させることが知られています」

吸収が良すぎて副作用につながる可能性もあるのですね。それでは、食後に飲む場合はないのでしょうか?

「食後の服薬が好ましい場合もあります。胃腸が弱くて、副作用としての食欲不振、下痢などが出ることがあり、こうした場合には食後に飲んでもらうことにしています。基本的には、漢方薬は食前・食間の空腹時に服用し、胃腸障害などの副作用が心配な場合は食後に服用する場合もあるということです」

漢方薬の服用の仕方で他にポイントはありますか?

「空腹時が原則といいますが、風邪をひいたかなと感じた時など、とにかく体調がおかしいと思ったらすぐに飲んで構いません。例えば、風邪の処方の代表である葛根湯は、風邪の初期に飲んでこそ効果を発揮しやすい薬です。体がぞくぞくし始めたらすぐに飲むのがポイントです。そのタイミングで飲むと体が温まって1~2回の服用で済むケースもあります。食後であろうと何であろうと、とにかく、おかしいと思ったらすぐに飲むのがコツです」

その他に風邪を早く治すために気をつけるポイントはありますか?

「体温を上げる薬の力を強めるために、温かいものを食べて体の内側から温めるとともに、厚着をして外から温めることも重要です。また、湿度を充分に保って安静にすることで、薬の効果が最大限に引き出されます」

もし、旅先で風邪っぽくて葛根湯を持っていなかったらどうすれば良いのでしょうか? 代わりにできる対策は何かありますか?

「首にタオルを巻いて、首の後ろをカイロなどで温めると有効です。風邪の初期には首が凝ったりしますが、首の後ろを充分に温めることで体温上昇を促すことができ、風邪の治りが早まる可能性があります」

あと気になるのが、漢方薬はどのくらいの期間、服用するのが良いのかということです。漢方薬は長期間飲むイメージですが、実際にどのくらい服用すれば良いのでしょうか?

「漢方薬は一般的に即効性がないと思われていますが、決してそんなことはありません。即効性のある漢方薬としては、花粉症などのアレルギー症状に使用される小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、こむら返りなどの筋肉の痙攣に使用する芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が頓服的に用いてできる漢方薬の代表です。

一方、長期的に服用しないと効果があらわれない場合もあります。長年患ってきた疾患、風邪をひきやすい、下痢しやすいといった虚弱体質などの改善には時間を要します。症状の改善は1~3か月で表れ始めることが多いです」

漢方薬は、治したい症状によっても服用期間が異なるのですね。

「時間がかかって患った病気はそれなりに治すのにも時間がかかるということです。西洋薬と異なる点は、今出ている症状を抑えるだけでなく、根本の原因から改善するために漢方薬を長期に服用するということです。

漢方薬での治療は、生活習慣を改善することも重要な治療のひとつで、自分の体や心に向き合うことを教えてくれます。病気になる前に自分の体の声を聞いて、漢方薬をうまく取り入れながら健康を維持していきましょう」

文/葉山茂一(はやま・しげかず)
漢方デスク株式会社代表取締役。漢方・薬膳の総合ポータルサイト「漢方デスク(https://www.kampodesk.com)」を企画・運営。

取材協力/渡辺賢治(わたなべ・けんじ)
慶應義塾大学環境情報学部教授医学部兼担教授。漢方デスクの漢方医学監修を務める。

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