文/中村康宏
厚生労働省による死因別死亡数の割合を見てみると、多いものから順にガンが約30%、心臓病が約15%、肺炎が約10%、脳卒中が約9%となっています(*1)。上位4位までで全体死因の約2/3を占めますが、これらは全て予防が可能な疾患群です。さらに、「寝たきり」原因の90%が生活習慣病と言われ、「生活習慣」が健康長寿を大きく左右することを認識させられます。そんなライフスタイルは仕事や人間関係・家庭環境など様々な要素の複合体で、年齢とともに変化します。
今回は、健康的に長生きするために、各年代の抑えるべきポイントを解説します。
●最近のトレンド「TTB」という考え方
「Time to benefit(メリットを期待できるまでの時間)」という考え方をご存知でしょうか?近年、予防を効果的に行うためにはこのTTBを意識すべきだという考えが広がりつつあります。例えば、「糖尿病検索のための採血検査」と「大腸ガン検索のための内視鏡検査」、何歳までやればいいのでしょうか?
糖尿病検査のTTBは2-3年、内視鏡検査のTTBは10年と言われています(*2)。これは、糖尿病の検査を受けて治療する場合2-3年でその効果が得られますが、内視鏡検査は10年経たないと検査の意義を見いだすことはできないことを意味します。つまり、検査の時点で余命10年残っていないと内視鏡検査をすることは統計上「ムダ」、あるいは、検査による合併症などから「危険」ということになります。すると、60歳時点では両方の検査を受ける意義がありますが、80歳時点では糖尿病検査は有益ですが、内視鏡検査を行うメリットはないと言えます。(平均年齢を84歳と仮定)
このように、効果的な予防をするためにはその時々に応じたポイントを抑えることが肝要なのです。
●年齢によって死因の特徴が異なる!
ガンが最も多い死因であることは上図の通りですが、年齢別死因構成(下図)をみてみると、年齢ごとに特徴があることがわかります(*1)。例えば、20代の一番多い死亡原因は自殺ですが、30歳を越えるとがんの割合が増え始め、60代をピークにがんの割合が減少し始めます。一方、60代から増え始めるのは肺炎です。また、脳卒中と心臓病を合わせた割合は、40歳頃から20%前後で特に年齢の影響を受けないことがわかります。
●その時々にあった予防が効果的!
年齢ごとに死因の特徴が異なることを解説しました。それに対し、講ずべき「予防の心得」を下記に示します。
【20代】
一番多い死因は自殺です。この年代は「勤務問題」を原因・動機とする自殺者数の比率が高く、特に職場環境やメンタルヘルスに気を配る必要があります。 強いストレスの元で、自分でも気づかない間にうつ病や精神不安定な状態になっていることがあるため、常日ごろからケア体制を確認しておく必要があります。
【30代】
ガンの死亡割合が10%を超え始めるため、がん検診を一通り行う必要があります。がん検診は通常の健診では「オプション」としての位置付けであるため、検査をやらない人、もしくは何を検査すべきか分からないまま検査している人が多く見受けられます。適切な検診間隔やどんな検査をすべきかを事前に相談することで、健診効率を最大化することができます。
【40-50代】
がんの割合は増え続け、心臓病や脳卒中の割合も増えます。この原因は、これまでに蓄積された小さなダメージが、目に見える形の「病気」となって現れたり、ホルモンバランスが変化し始めるからです。自分の状態を定期的な健診/検診で確認するとともに、将来のリスク(認知症・寝たきり・脳梗塞などの生活習慣病など)に備えるために、認知能力トレーニング、筋力維持、不足栄養素の補充を積極的に行いましょう。
【60代以降】
肺炎が増え始めます。この原因は、免疫力と筋力が低下することが挙げられます(詳しくは肺炎参照)。寝たきりは誤嚥性肺炎の最大のリスクと言えます。寝たきり予防のために行う運動は、筋肉量維持だけでなく骨粗鬆症の予防にも有効です。この年代の食事は、安易な糖質制限やカロリー制限は体力低下を招くことがあるため注意が必要です。免疫力は「腸内細菌叢」に大きく左右されると言われます。腸内細菌を外部から摂る(ヨーグルトや納豆など)、または、腸で育てる(詳しくはこちら)ことを今まで以上に心がけましょう。
●長く生きることではなく、健康寿命を延ばすことにコミットすべし!
日本人の平均年齢は高いですが、元気に自立した生活を送ることができる期間(健康寿命)を考えると、その期間は平均寿命より10年ほど短くなります。健康寿命を縮めてしまう原因として、脳卒中や転倒による骨折で寝たきりの生活を余儀なくされることや認知症などが挙げられます。さらに、年齢を重ねると筋力の低下から容易に要介護状態へ移行してしまいます。一度要介護状態となってしまうと、さらに筋力を低下させる「負の連鎖」から脱することは非常に難しいのです。このことから、遅くとも40-50歳から筋力維持に努めるとともに、生活習慣病を予防することが健康長寿のカギとなります。
以上、TTBという考え方と年代ごとに気をつけるべき予防のポイントを解説しました。健康を維持し病気を予防するには、病気の芽を早期発見・早期治療し、食事・運動および休養などの正しい生活習慣の実践と持続、であることは言うまでもありません。しかし、効果的な予防をするためには「個別化」して考える必要があり、年齢に合った予防ポイントを意識するようにしましょう。
【参考文献】
1.厚生労働省
2.Journal of American Geriatric Society,2018
文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。