文/中村康宏
じつは日本人の死因の中核(全死因3位)を占めるのは「肺炎」です。これからの超高齢社会を反映し、肺炎死亡者数はさらに増加すると考えられています。
肺炎は早期発見と予防がカギになります。予防として手洗いやうがい、マスクの着用は一般的な感染症の予防に勧められますが、肺炎についても有効です。さらにその他にも有効な肺炎予防として「ワクチン接種」と「誤嚥の予防」が挙げられます。
今回は「肺炎」を予防するための重要ポイントについて解説しましょう。
■肺炎には種類がある
まず、肺炎についての基本的な知識と治療について簡単に説明します。
肺炎とは、何らかの病原性微生物が肺に侵入したことで起きる急性の炎症です。そして肺炎には、普通に家で暮らしている方が日常生活の中でかかる肺炎(「市中肺炎」)と、入院してから発症する肺炎(「院内肺炎」)の2種類があります(※1)。
このように分類されるのは、両者の原因菌の種類と頻度、重症度、治療法、治療反応性が異なるので、区別して対処すべきとされているからです。肺炎治療においてもこの分類は非常に重要で、肺炎の種類によって治療薬を選択することで、原因菌が特定される前に治療することができるのです。
さらに近年はこの2種類に加えて、自宅以外の医療・介護施設で生活する高齢者や自宅で介護を受けている高齢者の肺炎が増えていることから、両者の中間的な位置付けとして「医療・介護関連肺炎」というカテゴリーも定義されるようになりました(※2)。
■風邪をひくと肺炎になりやすい?
気道の細胞には「線毛(せんもう)」という毛が生えていて、空気と一緒にウイルスや細菌などの異物が侵入すると、それらを体の外に掃き出そうとする防御機能があります。
ところが、喫煙習慣や、風邪やインフルエンザによる炎症でその細胞が剝離してしまうと、異物を排除する働きが一時的に損なわれてしまい、肺内で菌が増殖しやすくなり、肺炎を続発しやすくなるのです。これを「2次感染」と言います。
症状が出て3~4日しても発熱が治まらない場合は、合併症を疑い、早めに医師の診察を受けましょう。
■なぜ高齢者は肺炎になりやすいのか
2015年の人口動態統計によると、肺炎は日本人の死因の第3位に入っています。年間約12万人が、肺炎が原因で亡くなり、死亡総数の9.4%になります(※3)。
さらに肺炎で亡くなる方の約95% が65 歳以上の高齢者で占められることがわかっています。「年齢」は肺炎の大きな危険因子となります。これからの超高齢社会を反映し、肺炎死亡者数はさらに増加すると考えられます。
でも、なぜ高齢者になると肺炎になりやすくなるのでしょう?
じつは栄養摂取不良と高齢化による免疫能の低下との2つが、致死的細菌性肺炎の増悪因子として最も注目されています(※4)。さらに、高齢者は合併症を持っていることも多く、感染症に対する防御力が弱くなっていることも理由に挙げられます。
免疫力が落ちると、肺炎になりやすいだけでなく、肺炎の症状が悪化するスピードが早くなり重症化しやすくもなります。また、高齢者の肺炎は、熱がないなど症状が出にくく患者さん自身からの訴えが少ないため、重症化してから初めて医療機関を受診する例が少なくないこともあります。
■肺炎を防ぐにはどうすればよいか
肺炎を防ぐうえで大事なのは、まずは肺炎球菌のワクチン定期接種を受けること、そして誤嚥性肺炎に注意することです。
まずはワクチンについてです。高齢者の肺炎を予防するために、2014年10月より肺炎球菌ワクチンが定期接種の対象となりました。肺炎球菌は日常生活の中でかかる肺炎(市中肺炎)の原因菌の28%を占め、ワクチンはこれに対して有効です(※5)。
肺炎球菌にもたくさんの種類があり、ワクチンで全てをカバーするわけではありませんが、接種することで予防効果が期待できます。あらかじめワクチンを接種したグループは非接種グループに比べて市中肺炎の発症率や死亡率が最大で50%予防できるという報告もあります(※6)。
そしてもう一方の「誤嚥性肺炎」は、食べ物や唾液が肺に入った時(誤嚥)に、それを外に出すことができず細菌が繁殖して炎症を起こすことで起こります。これは、免疫が落ちたり体力が落ちた人、特に「寝たきり(廃用症候群)」の人に誤嚥が起こりやすいです。
誤嚥性肺炎が肺炎全体に占める割合は加齢とともに増加し、75歳以上の肺炎の実に80%以上が誤嚥性肺炎とされています。十分な注意が必要です。
■誤嚥性肺炎を予防する4つの方法
この「誤嚥性肺炎」を予防するには、次のことを心がけましょう。
(1)口腔の清潔を保つ:歯磨きをしっかり行ない、口のなかの細菌を繁殖させないこと、そして肺へ運び入れないことが重要です。
(2)胃液の逆流を防ぐ :食後2時間ほど座って身体を起こすようにします。
(3)薬を用いる:誤嚥性肺炎の再発予防には脳梗塞予防薬が有効です。また、一部の高血圧の薬でも誤嚥を予防することができます(※7)
(4)「寝たきり」を防ぐ:寝たきり原因の半分以上が、脳卒中、認知症、転倒となっており、これらの予防が重要です(※8)。これには、筋力の維持と生活習慣病の予防・管理を徹底することが重要です。
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以上、今回は肺炎予防のポイントについて、「ワクチン接種」と「誤嚥の予防」を中心に解説しました。
肺炎球菌ワクチンで肺炎の多くを予防できると考えている人もいるかもしれませんが、ワクチンは一部の肺炎にしか有効ではなく、肺炎にならない工夫(手洗い・うがい、誤嚥性肺炎の予防)も重要になります。ワクチン接種に加えて、筋力の維持と生活習慣病の予防も肺炎予防に直結しますので、日頃からこれらを心がけてください。
また、2次感染の早期発見は非常に重要です。症状が出て3~4日しても発熱が治まらない場合は、合併症を疑い、早めに医師の診察を受けるようにしてください。
【参考文献】
※1 肺炎診療ガイドライン. 2017
※2 日老医誌 2012;49:673―679
※3 厚生労働省
※4 IRYO 2002: 56; 200-4
※5 J Infect Chemother 2006; 12: 63
※6 Lancet 1914; 1: 87-95
※7 Jpn J Rehabil Med 2015; 52: 265-71
※8 JAGS 2008; 56: 577-9
文/中村康宏
関西医科大学卒業。虎の門病院で勤務後New York University、St. John’s Universityへ留学。同公衆衛生修士課程(MPH:予防医学専攻)にて修学。同時にNORC New Yorkにて家庭医療、St. John’s Universityにて予防医学研究に従事。