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健康

5人に1人がこころの病気に!産業医が考える、会社とメンタルヘルス

文/中村康宏

近年、労働環境の変化にともない、労働者の心身の健康問題が深刻化しています。自分の仕事や職業生活に関して「強い悩み、不安、ストレスがある」とする労働者の割合は全体の60%にものぼり、仕事の生産性や働きがいに影響を及ぼしています。さらに、ストレスや疲労の蓄積、長時間労働、睡眠不足、うつ病、生活習慣病などの病気につながることもあります。

このような背景から「メンタルヘルス」への取り組みが健康の保持・増進のために重要視されるようになりました。今回は、職場のメンタルヘルスを取り巻く最新の状況を解説します。

メンタルヘルスとは?

「メンタルヘルス」とは精神面(こころ)の健康のことです。世界保健機関(WHO)の健康の定義の一つであり、健康でいるためには欠かせない要素になります。健全なメンタルヘルスを保つためには、精神的な疲労、ストレス、悩みを上手にコントロールしこころの病気を予防することが大切です(*1)

こころの病気に対する偏ったイメージは正すべし

こころの病気に対してどんなイメージをお持ちでしょうか?残念ながら「自分はこころの問題とは無縁」とか「弱い人がなるもの」という偏った考え方があるのが現状です。しかし、こころの病気に対する正しい認識を持っておかないと、気づかないうちに人に無理なことをさせたり、傷つけたり、病状を悪化させているかもしれません。

こころの病気は、本人が苦しんでいても、周囲からはわかりにくいという特徴があります。また、日本人のおよそ40人に1人はこころの病気を抱えており、生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかるともいわれています。こころの病気は特別な人がかかるものではなく、誰でもかかる可能性のある病気だと認識しておきましょう(*2)

健康への影響

ストレスや睡眠不足の持続は、脳から全身へとつながるホルモン分泌システムの乱れを引き起こします。これは、インスリン拮抗ホルモンの分泌や交感神経系の活性化につながり、肥満や糖尿病など生活習慣病の一因として指摘されています(*3)

さらに、これまでの統計調査では、うつ病患者の約85%に不眠が認められるとされています。さらに、抑うつ気分、興味・関心の低下などの症状よりも先に不眠になる、という報告もあり、不眠の慢性化がうつ病につながるとも考えられています(*4)

時間外労働を労働衛生の観点から考えると、個人の状況や仕事の内容により一元的に「何時間までは負担がない」とは言い切れません。しかし、目安として、時間外労働が1か月に45時間を超えると、徐々に健康リスクが高まります。さらに、月に100時間、または2~6か月平均で80時間/月を超える場合、過労死などの発症が増えるといわれています(*5)*時間外・休日労働:休息時間を除いて1日8時間または1週40時間の法定労 働時間を超えて働くこと

企業への影響

企業のメンタルヘルスへの取り組みは業績へ直結する一大要因となります。例えば、アメリカの企業が従業員のこころの病気で一年間に失うお金は2300億円になると報告されています(*6)

近年特に、従業員の労働生産性に注目した研究が増えています。労働生産性は「休業している状態(absenteeism)」と「出勤しているが労働遂行能力が低下している状態(presenteeism)」に大別され、最近では特に後者の労働損失が大きいという報告がなされています(*7)

最近はメンタルヘルス問題に積極的に取り組む企業とそうでない企業に二極化する傾向があります。積極的に取り組む企業は、人材流出が少ない、社員満足度が向上しさらに生産性が高まる、企業価値が向上するという成果が得られています。

国の取り組み

「働き方改革」が耳目を集めていますが、国も過重労働による健康障害を防止することを目的として、対策に乗り出しています。例えば、時間外・休日労働時間の削減、年次有給休暇の取得促進、労働時間等の設定の改善、労働者の健康管理に係る措置の徹底などが挙げられます。また、平成27年より、医師、保健師等による「ストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)が会社の義務となりました(*2)

メンタルヘルスを改善し、健康な生活を送るために

健康な生活を送るためには、職場・個人双方の努力が必要になります。

職場の対応:労働者によるセルフケア(ストレスへの気づき、ストレスへの対処、自発的相談)が実施できるようになるための教育・研修を実施することが重要です。残念ながら、こころの健康問題に対する偏見は少なからず存在します。正しい知識が提供される環境を整えることが、メンタルヘルス対策の大前提になります。

また、職場の環境や人間関係に存在する目に見えないストレスを数値化し評価する必要があります。そうすることで、従業員のメンタルヘルス不調に早い段階で気づき、対応することができます。

相談内容やストレスチェックの内容が人事部などの他者に知られてしまう懸念があれば、職場に相談所を設けていても足が遠のいてしまいます。個人情報の保護を配慮し、職場全体へ周知することも大切です。

個人の対応:寝ても疲れている、気分が晴れない、という人は早めに相談所や産業医を利用してみましょう。ストレスへの上手な対処法を教えてくれたり、職場環境を改善するサポートをしてくれます。

また、栄養不足と気分障害やうつ症状と関連があると言われています。ビタミンB群/C/D、マグネシウム、亜鉛などの欠乏によってうつ症状が現れることがあります。特に、ビタミンCはストレスが多い人、アルコールの摂取量が多い人、野菜や果物の摂取量が少ない人などは不足しがちですので、生活習慣が乱れている人は注意して下さい(*8)

また、野菜を食べているつもりでも加工食品やカット野菜などを多用する現代食は上記の栄養素が不足しがちです。うつ症状がある場合には、上記のような栄養素の摂取不足を疑ってみることも大切です。

以上、メンタルヘルスの個人への影響、企業への影響、国の対策や予防方法について解説しました。「労働」は生きて行く上で、経済的にもやりがい的にも社会的にもなくてはならないものです。その環境を改善する努力は社会全体で行われており、それぞれが健全なメンタルヘルスを保つ方法を知っておきましょう。

困ったとき、産業医に相談するのは少し気兼ねする、とおっしゃる方も多いですが、遅くなってからは立て直すのが大変です。正しい認識・知識を持ち、早めの対策を心がけましょう。

【参考文献】
1.WHO
2.厚生労働省
3.Health Psychol 2014; 33: 1430-4
4.産業医学ジャーナル2010; 33: 89-96
5.HEP 2009; 36: 217-22
6.JAMA 2003 18; 289:3135-44
7.J Occup Rehabil 2011; 21: 90-9
8.国立健康栄養研究所


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。

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