スタート前日、函館の街に入った。ここまでも鈍行で来ようかとも考えたが、そうなるともう旅行だか、体力の限界への挑戦だかわからなくなってしまう。だいいち青森と函館を結ぶ青函トンネルに普通列車はすでにない。値段と時間を考えてここは飛行機を選択した。

ホテルに荷物を置き、港に浮かべられている青函連絡船「摩周丸」へ行く。小雨の降りそうな空の下、巨大な船はむかしと変わらない姿をみせていた。20代でさんざん乗せてもらった船だ。引退から約30年。潮風の中でよく残してくれているものだと思う。

函館港で休む摩周丸。今で汽笛を港に響かせることができる。

もし青函連絡船が残っていたら、間違いなくこの旅は連絡線を使用していただろう。青函連絡船で函館山の姿が見えたときは、いつもなぜか「自由の大地」なんてことを感じていた。ホント、若気の至りってやつだ。

あのころ、連絡船の約4時間は、北海道へ渡る儀式のような時間だった。「摩周丸」の姿を眺めながら「明日からまた、若気の至りのような旅が始まるな」と思った。

さあ、JR北海道の在来線約2500kmの全線制覇を目指して、長い長い鉄路の旅が始まる。1日目へ続く

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

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