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9日目《留萌から苫小牧へ・その1》【実録・JR北海道全線踏破10日間の旅】

昨年夏『サライ.jp』に連載され好評を博した《実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅》。九州・枕崎駅から北海道・稚内駅まで、普通列車を乗り継いで行く日本縦断の大旅行を完遂した59歳の鉄道写真家・川井聡さんが、また新たな鉄道旅に出た。今回の舞台は北海道。広大な北の大地を走るJR北海道の在来線全線を、普通列車を乗り継ぎ、10日間かけて完全乗車するのだ。

※本記事は2018年5月に取材されたものです。北海道胆振東部地震により被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。少しでも早い復旧と皆様のご無事をお祈りしております。

文・写真/川井聡

>> 前回【8日目】から続く

【9日目のルート】

旅路も終盤となって、行程にも余裕ができてきた。

今日の予定は留萌―深川―札幌―岩見沢―苫小牧である。

留萌から乗車するのは朝8時11分の深川行き。その前に昨夜訪れた「やまと会館」へ足を向ける。日中この建物を見るのは初めて。木造ではあるが、「ビルディング」と呼びたいような存在感だ。

「シャンデリアみたいに裾がボワッと膨らんだスカートをはいたお姉さんがお店から出てきて、ドキドキしながら見てました。」昨夜入ったバーで教えてもらった大和会館のエピソードだ。全盛期は居酒屋・鮨屋・スタンドバーが並び商人宿も入った、「ビル」の中に歓楽街がそろった巨大レジャーランドだったようである。

留萌は石炭と鰊、そして豊かな森林資源から生まれる材木を運び出す基地であった。街の真ん中には巨大な入り江があり内港となっていた。ただ留萌のニシン漁は昭和27年を境に漁獲が激減して終了。翌年には入り江にあった内港が埋め立てられ再開発が行われた。やまと会館があるのは元の入り江のそば。ニシン漁は終わっても石炭や林業はまだまだ盛んで、そこに集う人々を相手に建てられた。

その後も増築が繰り返され、留萌の歓楽街で中心的な存在となっていたのだが、石炭と林業の衰退で大きさを持て余す建物となってしまった。


やまと会館外観。屋上は明り取りを兼ねたダブルルーフ。留萌の戦後史を語る「木造の雑居ビル」だ。


建物は二階建て。中央の通路は巨大な吹き抜けだ。


増築部分に作られた、というより出来てしまった「有楽トンネル」。入口に彫りこまれた文字が美しい。


中に入ると通路の両脇にお店の跡が並んでいる。今でも通路として使う人が多いらしく、足元はきれいに掃除されていた。

やまと会館では居酒屋がまだ数軒営業しているようだったので、訪れてみたかったが、さすがに早朝では早すぎるので、次回に期待する。

「この様子では、早くいかないと営業終了かな?」と思っていたら、2018年の夏に建物ごと解体されてしまったようである。

やまと会館から留萌駅まで1キロほど。朝食を期待して足を急ぐ。駅で食べるのはもちろん駅そばである。この駅でも駅そばが現役。

駅そばが現役なのは、お客さんがいるから、そして店員さんがいるから。無人駅が増え、駅弁も減少する中、駅でそばを作ってくれている。橋を守る橋守のように、旅を守る「旅守」さんのような存在かもしれない。


予想もしないメニューがあった。立ち食いそばに詳しいわけではないからよくわからないが、「ニシンそば」はかなり珍しいのではなかろうか。かつてニシンで栄えた街でいただく熱いツユと少し固めの麺、そして煮込まれたニシンのバランスは絶品。


待合室には小さな専用テーブルも設けられている。地元の人や鉄道員さんたちのちいさな食堂でもある。


深川までの車両は再びキハ54形。国鉄がJRのために作った置き土産の車両が今も健在である。


恵比島駅にあるのは1998(平成10)年に作られたロケ用の明日萌(あしもい)駅。「後に残せるように」と、かなりしっかり作られ、メンテナンスも行われている。


恵比島から深川までは石狩平野の北端。雨竜平野とも呼ばれる田園地帯。


9時9分、深川駅に到着。これから札幌方面に向かうのだが、乗換時間は約2時間。ホームでは車両の連結シーンを見ることができた。


滝川までは再びキハ54.今度の座席は「集団見合い型」。中央にあるのはテーブルがあって窓が広い席と、テーブルがあって横に窓がない席。


古いレールを組み合わせて作られた跨線橋。昭和初期に作られたものらしいが、全国各地で今も同様のものが現役だ。友人の設計師によると細かい構造計算はされていないだろう、という。「大丈夫なの?」と聞いたら、「むしろ、オーバースペックと言っていいくらいがっしりと作られていますよ」という返事だった。

20分余りで滝川駅に到着。旭川から岩見沢までの区間は特急列車が主役で、普通列車の本数は少ない。滝川駅の構内には、日高本線専用塗装のキハ40形が停車していた。2015年に波浪で線路が途切れて以来、仕事場を失った形の車両が各地に派遣され運用に就いているのだ。


滝川駅ホームの自動販売機。昔の旅行雑誌か何かに出ていそうなイラストが、キッチュな味わいを出している。


滝川から札幌までは電車。まず乗車するのは岩見沢行き。約40分の道のりだ。


自販機コーナーで「いい日旅立ち」を発見。国鉄が1978(昭和53)年に始めたキャンペーンだ。山口百恵の唄をキャンペーンソングに大ヒットした。

キャンペーンは5年ほど続いたのでイラストもこの頃書かれたのだろう。35年~40年前の看板が、過去への旅もいざなってくれるような「タイムスリップ看板」だ。(ちなみにJR西日本はこの歌を改めて自社のテーマソングにし、トワイライトエクスプレスや新幹線の車内で流してきた。)

岩見沢行きの列車は空いていた。急ぐ人はみな、特急でゆくのだろう。同じ車内にいたのは今日が休日という二人組。

岩見沢から室蘭本線に乗り換えて、どこかへ行くらしい。それにしても楽しそうなのだ。


話を聞いてみると、滝川駅前の焼肉屋でおいしい焼き肉を食べてきたばかりなのだとか。「サガリ定食・700円」お勧めです。


今日は乗車距離こそ短いが乗り換えが多い。岩見沢では、20分弱の乗り換えで、「いしかりライナー」に乗車する。少しの時間だが、天気がいいので、駅の外までミニ散歩。


岩見沢駅。長年木造駅舎で親しまれてきた駅だったが、2000年12月に突然の火災で焼失。現在の駅舎に建て替えられた。鉄道の街として発達してきた岩見沢らしく、ガラス窓の手前にある柱は古レール。時代や製造会社など多くの種類が使われている。

ホームに戻ると、またもやタイムスリップ看板がいた。

 


岩見沢駅の名物。木造のばんえい(輓曳)競馬。ばんえい競馬は、体重1トンほどもある馬が重い橇を輓(ひ)いて競争する北海道独特の競馬だ。戦後すぐに岩見沢と旭川に、公営のばんえい競馬場が作られた。岩見沢の競馬場自体は2006年に閉鎖されてしまったが、ばんえい競馬は2018年現在の帯広で開催されている。

札幌までの乗車は「いしかりライナー」名前は景気いいのだが、岩見沢~札幌は途中11全ての駅を停車する。文字通りの「ライナー」になるのは札幌駅を出てから手稲駅まで。

《9日目・その2に続く!》

【9日目・その1乗車区間】

留萌~深川~札幌(留萌本線・函館本線)

文・写真/川井聡
昭和34年、大阪府生まれ。鉄道カメラマン。鉄道はただ「撮る」ものではなく「乗って撮る」ものであると、人との出会いや旅をテーマにした作品を発表している。著書に『汽車旅』シリーズ(昭文社など)ほか多数。

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