お願い事の本気度を試され、土下座をしたことも……

躾に関しては、どちらも厳しかったと言います。「子供を押さえつけるような教育だった」と麻友さんは当時を振り返ります。

「子育ては母親がメインだったんですが、当時母親は周りに子育てについて相談できる人がいなくて、親は厳しくあるものだという価値観があったみたい。子供を押さえつけることが躾だと思っていたんじゃないかな。親が厳しくすることこそが正しい子育てなんだと。

そんな母親が子供たちに取った行動は、子供がしたいことに何でも反対すること。それもお菓子やおもちゃを買ってというわがままではなく、塾に通いたいというお願いに対してもです。本当に塾に行きたいのかという気持ちの本気度を試されたことが何度もありました」

本気度を試す父親に対して、土下座でお願いしたこともあるそう。

「当時は中学3年生で、高校受験に向けて夏期講習に通いたいと言ったら、『本気で行きたいなら、お前の誠意を見せろ』と父親から言われたんです。それを隣で見ていた母親も、『お父さんの言う通りにしなさい』と、父親のバックアップにまわって、私を庇ってくれることなんて一度もありませんでしたね……。結果、土下座でお願いしたら正解だったようで、夏期講習には通わせてくれたんですが……」

子供に対して、そこまでの押さえつける躾に麻友さん自身、違和感はなかったのでしょうか。

「当時父親は『俺が出て行けと言ったら、お前たちは家では暮らせない』といったようなことをよく口にしていました。母親も母親で、『お父さんのおかげでみんなごはんが食べられているのよ』といかに父の存在が絶対的なものなのかを伝え続けられていて、私はその通りだと思っていました。私は幼かったというのもあり、まったく反抗できないほどの態度と空気で押さえつけられていました。見捨てられたら生きていけないって、今以上に辛くなると思っていたんですよ。それが日常で、うちの家はおかしいんだと比べる存在もなかったから。

それに、両親とも厳しいだけでなく、愛情も強かった。子供との時間を最優先してくれて、寂しいと思ったことは一度もありませんでしたから」

両親からのやや偏った愛情をそのまま受け続けた麻友さんでしたが、積み重ねられた負の感情が社会人になり、爆発してしまい、病名がつくほどに……。そこから、今のように交流を持てるようになるまでには、長い時間が必要でした。【~その2~に続きます。】

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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