取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「父親は本当に芯が強い、真っ直ぐな人。そのことに気づくまで、時間がかかってしまいました」と語るのは、景子さん(仮名・43歳)。彼女は現在、東京でさまざまな資格を生かしてコンサルティングの仕事をしています。しっかりと目を見て話すところや丁寧な言葉遣いなど、第一印象から人当たりの良さを感じさせる女性です。
じっと座っている父親に、その周りで働く母親。小さい頃の父は絶対的な存在だった
景子さんは神奈川県出身で、両親と3歳下、6歳下に2人の妹がいる5人家族。父親は技術職のサラリーマン、母親は専業主婦で、両親の結婚はとても早かったと言います。
「両親は2歳差で母親の方が年下です。2人は英会話教室で出会い、父親が23歳の時に結婚して、当時母親は学生だったみたいです。父親も就職1年目の新入社員の時で、2人の結婚は周りから反対されたのを押し切ったかたちだと聞いています。母親は一度就職したみたいですが、私の物心がついた頃からずっと専業主婦で、私たちの面倒は母親が見てくれていました」
景子さんの家は一言で言うと、亭主関白。動かない父親の周りで働く母親という構図を、小さい頃からよく目の当たりにしていたそうです。
「父親は典型的な亭主関白で、食卓に座ったらまったく動かない。さらには、何も言わなくても父親が欲しいものを母親や私たちが汲み取って、食卓に準備しなければいけなかった。すべての準備が終わるまで食卓に座ることは許されなかったし、父親が食事に手をつけるまでは食事も始まらない。ご飯を食べる時にはテレビも音楽もかけてはいけなかったし、会話もダメだったんです。黙々と食事する時間は憂鬱でしたよ。でも、父親は仕事が忙しく、出張で家にいないことも多かったからなんとか乗り切れた感じです。父親のいない食卓はとても楽しかった記憶が残っていますね」
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