文/鈴木珠美
首都高は怖い、そして美しい【彩りカーライフ~自分の人生をかろやかに走ろう~】首都高速道路を走っていると「ああ、この車はまだ首都高に慣れていないのだな」と思う車と遭遇することがある。そんなとき、思い出すのが自分のペーパードライバー時代だ。郊外で自動車免許を取得した私は東京都内の道にはてんで弱く、その中でもペーパードライバー克服中の時代は、首都高速に乗るのは決死の覚悟が必要だった。そんな状態なら迷惑だから乗るなよ……という声が聞こえてきそうだが、仕事で走らなくてはならない事情もあり、首都高速はクリアする必要がある道だった。

当時は新宿インターから乗ることが多く、最初の難関は乗ってすぐに訪れる合流。慣れていないドライバーにとっては加速する車線が短いので難易度は高い。1度、合流しようとする車線にトレーラーが真横に来たため、合流できずにあろうことか止まってしまったことがある。危険極まりない失態。「真横になが~いトレーラーがいたら合流は無理です」と会社の先輩に言ったら「前に入るか、後方に入るかおそらく調整はできたと思うが、とりあえず無事でよかったな」と言われた。確かにおっしゃる通りで、振り返れば加速レーンでの加速が足りなかった。

失態はそれだけではない。降りたいインターで降りられないというヘマを幾度も繰り返したし、行きたい場所へ行けず、目的地からどんどん離れていくという悲しい経験も繰り返した。いまならインターネットで検索して、首都高速を走っている動画や首都高速の難所ポイントを攻略する方法が紹介されているサイトなどから、より緻密な事前シミュレーションができるかもしれないが、当時は、地図とカーナビゲーション頼り。それだけで充分じゃないか!とつっこみが入りそうだが、総合的に見て運転のセンスと、運転に対するメンタル面が細かったペーパードライバー時代の私にとって、カーナビだけでは不十分だった。緊張のあまり、カーナビから届く声が頭に入ってこないこともたびたび。

そこで最初に私が取り組んだのは、手書きマップ=路線図作りだった。とにかくどっちが池袋で、目黒で、銀座、台場、木場なのか、それぞれの位置関係を覚えないと始まらない。合わせて3号線、4号線、5号線、6号線なども、どれとどれが、どうつながっているのかを頭に入れておく必要がある。首都高速の路線図を俯かんから見られるようになるまで何度も何度も書いて、目で見て、頭の中でシミュレーションを繰り返した。

首都高速に乗る前には必ず路線図を見て、乗るインターから降りるインターまで頭に入れる。どのポイントで、どの車線にいたらよいのかも頭に入れた。また失敗したときのシミュレーションもした。万が一、通り過ぎた場合は、次のインターで降り、下道で戻ろうとか。無理やり弟を助手席に乗せて、予習もした。今振り返ると失笑するような事態だけど、当時は必死だった。

こんなありさまなので、かろうじて首都高速の路線図を頭に入れたとしても、しばらくは要領の悪さと、メンタル面の影響で、傍から見れば私の運転はヨロヨロだったと思う。正直、一番の問題はメンタル面。心が萎縮すると運転もあたふた、とっちらかる。周囲のドライバーがみなベテランに見えて、みなが正しく走っている中で、その秩序を自分一人がかき乱しているように思えた。でもここで諦めたら“首都高怖い”からいつまでたっても卒業することができない。何とか心が折れないように気持ちを強く持ち、歯を食いしばって走り続けた。

少しずつ経験を重ねていくうちに、首都高速を俯かんからイメージできるようになっていった。そして車線選びが上手くいくようになると周囲の車の流れにも乗れるようになり、運転はあたふたしなくなった。走る車線を迷わなくなると首都高速を走りながら音楽やラジオも楽しめるようになった。そしてとある夜。千葉方面からレインボーブリッジに入り、広がる東京の夜景を見て『綺麗だな』と思えたときに、私もやっと首都高速道路を普通に走ることができるようになったんだなとしみじみ思った。

今でも11号台場線から都心方向に進み、東京の夜景が広がる区間は好きだ。

文・鈴木珠美
カーライフアドバイザー&ヨガ講師。出版社を経て車、健康な体と心を作るための企画編集執筆、ワークショップなどを行っている。女性のための車生活マガジン「beecar(ビーカー)https://www.beecar.jp/ 」運営。

 

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