文/鈴木珠美
免許の自主返納は困難だ高齢者ドライバーの運転免許の自主返納の話題が増えている。もはや話題にするだけでなく、早急に取り組まなければならない社会問題であり、身近な問題なのだと、近ごろ胃がきゅっと引き締まる思い。

高齢運転者の対策は、平成21年に講習予備検査(認知機能検査)が導入され、運転免許証の更新時に、70~74歳の方は高齢者講習、75歳以上の方は講習予備検査+高齢者講習を行うこととなった。が、この対策ではカバーできないということが、昨今の高齢者の交通事故を見ると明らかだろう。

また平成10年からはじまった運転免許の自主返納制度だが、75歳以上の運転免許の自主返納は進んでいないという。「免許を返納すると、多くの特典が受けられます!」と言われても、住んでいる環境によっては特典とはいえない。車以外の交通手段がない場所で暮らす人にとって、車は生活をするための大切なアシになっている。田舎に住んでいる私の両親の例であげれば、銀行や病院、スーパーに行くにも車が必要だ。

身近な人の説得は難しい

車に乗り続けていると、自身の衰えは自覚しにくい。さらにいえば、客観的な自己分析ができないことも、ある種、老化なのかもしれない。亡くなった祖父も入院する前、80代まで乗っていた。当時は高齢者講習も無かった時期。祖父は家の駐車場にぶつける、こするはしょっちゅうで、ときに田んぼに落ちることもあった。もちろん、幾度も家族は車の運転を辞めてほしいと説得は試みた。しかし最終的には頑固な祖父に根負けし、「自転車のようなスピードで走っているし田舎だから……」と、認識の甘い家族は祖父の運転を許してしまっていた。改めて今振り返ると、身震いする。たまたま、偶然に、運よく、人身事故を起こさなかっただけの話だからだ。

周囲や家族が高齢者ドライバーに、免許の自主返納を促すのは難しい。身近な人の図星の意見は、本人の機嫌を損ねるし、真意は届きにくい。さまざまな高齢ドライバーの事故例を見せたところで、当の本人は、自分に置き換えて想像することができない。

そもそも免許証の更新をすることができ、免許証が交付されている以上は、車を運転してもよいという許可を得ているわけなので、自分の運転に問題が無いと思っているドライバーであれば、なおさら、車の運転を辞めない。……なんせ、運転してもよいと、許可が出ているのだから。

高齢者講習の見直し

家族の説得は難しい、自己分析も困難。となれば、免許の更新をする際の“高齢者講習”の条件を厳しくする方法はどうかと考えている。

もちろん、多くの課題はある。
講習内容はどうするのか、適格に判断できる指導員の教育、講習会を受ける場所、受講者の費用はどうするのか、そして車に代わる交通手段はどうするのか。とくに車以外の交通手段が乏しい場所で暮らす人たちにとっては不自由を強いられる。

私の祖父母が住んでいた地域も車が無いと不便だった。最寄りの駅まで車で10分、近くのバス亭までは徒歩で30分かかる。祖母は祖父を亡くしてからは、近所の人に乗せてもらったり、車で30分ほど離れた町に住む母に迎えに来てもらったり、周囲の人の助けを借りながら過ごしていた。もともと祖母は車の免許が無かったので、車が無ければ無いなりの過ごし方を工夫することは、免許があった祖父よりもしやすかったのかもしれない。地域によっては、誰かの車をあてにする生活は不便で不自由だ。それでも運転に適した判断能力がなければ、車を運転することはできない。運転はしてはいけないのだ。

高齢者予備軍も明日は我が身

例えば、各自動車教習所で、60歳以上から自主的に受けることができるベテランドライバー用のコースを用意して、客観的に自分の運転技術を評価してもらうプログラムを用意するのはどうだろうか。65歳以上になったら、任意ではなく、運転技術チェックを受けることを条件に免許を更新する制度にする。

70歳以上は1年ごとに運転シミュレーターなどで運転の判断力チェックを行い、免許更新時期には、今よりも厳しく設定した内容で高齢者講習会を実施する。家族の説得や自らに返納のタイミングを任せるのではなく、公的な機関で、客観的に分析し、合否を決める。

正直、自分が60、70代になったときに、今と比べてどれくらい運転に対する判断能力が落ちるのか、ペダル操作やハンドル操作にどの程度の遅れがでてくるのかが想像つかない。高齢者予備軍も健康診断と同じく、確認できるプログラムが必要かもしれない。高齢者になったときに、40代、50代のときの運転力を計るデータがあれば、比較することができるので自身の状況を客観的に判断しやすくなる。高齢者ドライバーの対策は、早急に求められている。

 

文・鈴木珠美
カーライフアドバイザー&ヨガ講師。出版社を経て車、健康な体と心を作るための企画編集執筆、ワークショップなどを行っている。女性のための車生活マガジン「beecar(ビーカー)https://www.beecar.jp/ 」運営。

 

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