文/鈴木珠美
女性=運転は苦手、女性=運転がヘタ。ときおり耳にするこの言葉。実際のところはどうなのだろうか?
昔の話だが、恋人が運転するクルマの助手席に座りドライブへ行った。ドライブ中の小休止でパーキングエリアに入ったとき、目の前のクルマが駐車するのに少し手間取っていた。もう少し先に進めば空いているスペースがあるので、後続車が後ろに来た場合は手前の駐車スペースは後続車にゆずったほうがスマートなのだけど、目の前のクルマは見つけたスペースに入れようと必死の様子。その様子を見ていた恋人が言った。
「周囲が全然見えてない。女のドライバーはダメだ。へたくそ」
恋人の発言にはいろいろ問題がある。ほんの少し待たされただけなのに、相手をおもいやる気持ちのかけらもない短気さ、前のクルマに対してだけでなく、全女性ドライバーをひとくくりにした発言。
前のクルマが何とか駐車スペースに入れた。その直後、彼はわざわざ強めにアクセルを吹かしその場を去った。通りすがりに前のクルマの運転者を見ると男性だった。
「あのクルマのドライバー、女性じゃないよ、男性だったよ」
私の言葉は届いているのか届いてないのか。返答もせずにイライラしながら駐車していた。
……不快。すごく、不愉快。これが原因で別れたわけではないけど、クルマを運転すると、ときに、人間の本性がでるそうだ。話がそれたが、このようなことは恋人だけでなく、周囲の人にも起こる。車線変更や合流がスムーズにできないクルマを見かけたときや狭い道でのすれ違いが上手くできないクルマと遭遇したときなど、誰が乗っているのかを確認せずに「女性ドライバー」だと思う人は少なくない。
では実際、女性の運転はヘタなのか?
結論をいえば、運転の上手いかヘタかは男女関係がない……と私は考えている。運転は経験がものをいう。高速道路をひとつとってもカップルを見かけると男性が運転しているケースが多い。長距離になるとますます男性が増える。家族と出かけるときも、子供の面倒をみたり、助手席で運転者をフォローするのは女性が多い。つまり、男性のほうが、いろいろな場面で運転することが多いので、運転の経験値は自然に上がっていく。
女性でも長距離の運転をはじめ、狭い道、路面の悪い道、知らない道を自由に走ったり、狭い駐車スペースでも停めるなど、あらゆる場面で運転する経験を積んできている人は、運転スキルが身についていく。
運転が上手いかヘタかは、男だから、女だからではなくて、どれだけいろいろな道と、いろいろなシチュエーションを経験しているかということだと思う。
男女の差が出るとするなら、比較的、男性のほうがクルマという道具に対して、チャレンジ精神が強いと思う。チャレンジ精神が強いから、いろいろな知らない道や難しい道でも挑戦する人が多い。また闘争本能も女性より強いように思う。何か他車にケチをつけられたときに、応戦してしまうのは男性が多いように感じる。
そして、レディーファーストの気持ちもあると思う。ロングドライブのときは紳士な気持ちでハンドルを握り、女性には助手席を促す。また女性はそんな男性を頼りがいあると感じ、ときには男性を立てたいと思う女性もいて、自ら率先して助手席で運転者をサポートする役割を担う。
いっぽう女性は、クルマという道具に対して、慎重に考える人が多いように思う。無理はしないようにしよう、周囲に迷惑をかけないようにしようという気持ちが男性よりも少し、大きいように感じる。
他車にクラクションを鳴らされたり、後続車に迫られパッシングされたときなどは、怒りよりも怖い!と思うことのほうが多いように思う。他車に何か嫌な思いをされたとしても、応戦するのではなく、すみやかに受け流し他車が通り過ぎるのを待つスタンスだ。
男女の差も世代によって変わる
男の子は外でプロレスごっこ、女の子はおままごと。それは極端な例だけど、男の子は男の子らしい遊び、女の子は女の子らしい遊び方を求められた時代もあった。女の子がプロレスごっこに参戦しようものなら「女の子らしくしなさい!」と注意されることもあったし、男の子がままごとに参加していると、他の男の子が「女みたいー」とからかうこともあった。
いまは子供時代も男女の差がなくなりつつあるように感じる。いずれいま免許を取得していない世代が免許を取得して、クルマを運転するようになったら、また道の様子も変わるだろう。
いろいろな世代、いろいろな考え方を持った人が同じ道をクルマで走っているわけだから、独りよがりな考え方をしていては道の平和は保たれない。
クルマの運転は大人力をものすごく問われる。その中でも周囲をおもいやる心が一番大切だと思う。私個人の見解だが、運転が上手い人は周囲を思いやる気持ちもたけている。
文・鈴木珠美
カーライフアドバイザー&ヨガ講師。出版社を経て車、健康な体と心を作るための企画編集執筆、ワークショップなどを行っている。女性のための車生活マガジン「beecar(ビーカー)https://www.beecar.jp/ 」運営。