文/鈴木珠美
車の会話、パッシング【彩りカーライフ~自分の人生をかろやかに走ろう~】
ずいぶん昔の話になるが、私がまだビギナードライバーだったころ、対向車線のトラックがパッシングをしながら走ってきた。トラックの前に車はいないのだが、一定の感覚でパッシングしている。「なんのパッシングだろう……?」と首をかしげていると、横に乗っていた友人が「先で(警察が)ねずみ捕りをしているのかも」と言った。

しばらく車を走らせると友人の言葉通り、本当に警察がねずみ捕り(違反者を捕まえるために待ち構えていること)をしていた。「対向車線の車がパッシングしているときはね、道の先で警察がねずみ捕りをしているとか、落下物があるとか知らせてくれているパッシングなんだよ」と友人が得意気に教えてくれた。そのときはまったく知らなかったので「へー」と深く感心したことを覚えている。

ビギナー時代、最初にパッシングを受けたのは後続車からのパッシングだった。高速道路を走っていたとき、ずいぶんと後方の後続車がライトをパシパシと点灯させながら、猛スピードで接近してくるのが見えた。その様子はあまりに恐ろしく、慌てて車線を変えた。それ以降も、後続車からの「ドケドケ」といわんばかりのパッシングは何度も経験をした。その印象が強かったのでパッシング=邪魔、ドケ、譲れという合図なのだと刷り込まれていた。

なので、相手のドライバーを思いやる優しいパッシングの存在を知ったときは、いつも緊張しながら遠慮がちに車を走らせていて、すっかり萎縮した心がほっとほぐれた瞬間だった。

実戦で体験しながら覚えていくパッシングの意味

交差点でパッシングを受けたときもそうだ。右折しようと右折レーンの先頭で対向車が途絶えるのを待っていると、対向車がパッシングしてきた。初めて交差点で受けたパッシングだったので最初は戸惑ったのだけど、恐る恐るパッシングしてきた車のドライバーを見ると、手でどうぞと指示してくれている。「なるほど、先にどうぞというときにもパッシングって使うのか」と理解した。(あとから知ったのだが、地域によっては「お先にどうぞ」という意味ではなく、「先に行くから待っていてね」という意味もあるらしい。地域によってパッシングの意味が異なることもあるので覚えておきたい)

道を譲ったときにもパシパシと2回ほど、パッシングを受けた。これは「道を譲ってくれてありがとう」と感謝を伝えるパッシング。そうやってひとつひとつ、車のパッシングを受けながら、パッシングの意味を理解していった。

近ごろ問題になっているあおり運転だが、あおり運転をするドライバーが自身の怒りの感情を表すのにパッシングを使う方が多いため、パッシング=あおり運転をイメージする方は少なくない。相手への思いやりのパッシングは、身勝手な悪魔のパッシングに押され気味だ。

先日、10人程度の20代の若いドライバーが集まる機会があったので、運転中にパッシングを使っているか聞いてみると全員が自分では使ったことがなかった。パッシングに対する印象は悪いイメージのほうが強く、なかには、パッシングに「ありがとう、感謝」の意味があることを知らない人もいた。

パッシングはルールブックに載っているわけではない。ドライバー同士のコミュニケーションのツールとして自然発生的に広がっていったものなので、全員が全員、意味を理解しているわけではないことも知っておいたほうがいい。

自動運転の時代がくればこんな話も解決するのかもしれないが、今はまだ、ドライバー同士の思いやり、コミュニケーションが必要な時代にいる。パッシングという行為は、他のドライバーを思いやる気持ちから行ってほしいと思う。

文・鈴木珠美
カーライフアドバイザー&ヨガ講師。出版社を経て車、健康な体と心を作るための企画編集執筆、ワークショップなどを行っている。女性のための車生活マガジン「beecar(ビーカー)https://www.beecar.jp/ 」運営。

 

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