2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』。本格戦国大河の放映開始を心待ちにする、大河ドラマファンの編集者が語り合う対談・第三弾――。
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編集者A(以下A) Bさんは、仕事柄大河ドラマには、お詳しいですが、『麒麟がくる』の見どころはどの辺にあると思っていますか?
編集者B(以下B) 明智光秀が主人公なわけですから、光秀目線の本能寺の変がどのように描かれるのかが最大の関心事だと思います。ただ、本能寺の変は、ドラマの最終盤になりますから、それまでにも山場は多いと思います。
斎藤道三と織田信長の正徳寺の会見、斎藤道三が討たれる長良川の戦い、桶狭間の戦いなど前半だけでもこれだけある。
A 信長包囲網ってどこまで描くのですかねえ。個人的には注目ポイントなのですが・・・・。過去大河『国盗り物語』(昭和48年)では、こんな緊迫シーンがありました。浅井・朝倉との戦いの前ですが、伊丹十三演じる足利義昭と近藤正臣演じる明智光秀が茶室で密談しています。
ナレーション 足利義昭を第15代将軍に立て上洛を果たした信長に対し、諸国に反信長同盟の網が張り巡らされた。この陰謀の中心人物は将軍義昭その人である。
義昭 信長は倒れるぞ。わしの合図ひとつで摂津石山の本願寺が立ち上がる。それを中国の毛利が後押しをする。と同時に北方から越前兵が攻め下る。越後の上杉、甲斐の武田も信長を倒すことで意見がひとつになった。近江の叡山もわしに力を貸す。
光秀 上様、さような火遊びはおやめあそばしませ。
義昭 ふっふっふっ 火遊びなものか。信長めに征夷大将軍がいかにおそろしいものであるか見せてやる。
B 『国盗り物語』といえば、大河史上初めてハンディカメラを使って撮影された作品ですね。昨今はドローンを使った撮影も当たり前ですから隔世の感がします。
A ・・・・・・・・・。ここで将軍義昭は、「越後の上杉、甲斐の武田も信長を倒すことで意見がひとつになった」と言っていますが、元々織田と武田は同盟関係にあったのではなかったでしょうか。
B そうですね。
A 今、手元にある『[ビジュアル版]逆説の日本史4 完本 信長全史』(小学館)の〈「元亀」三年間の緊迫攻防完全ドキュメント 「信長包囲網」天下布武VS天下静謐の激闘〉のページを開いています。
B ああ、懐かしい本ですね。
A それによると、永禄8年(1565)、信長は姪を養女にして、武田勝頼に嫁がせています。これにて織田・武田同盟締結です。この同盟に信玄の嫡男で今川義元の娘を妻に迎えている義信が反発する。
B これで、信玄と義信は激しく対立して、義信は廃嫡、幽閉ときて、2年後の永禄10年(1567)に亡くなってしまう。同じ年に、信長の嫡男信忠と信玄の五女・松姫が婚約します。
A このあたりの戦国大名の動向は面白いですね。信長が足利義昭を奉じて上洛するのは、永禄11年(1568)。この年、信玄は今川氏真と断交して駿府に攻め入っている。一方、義弟浅井長政に裏切られた信長が、命からがら撤退した金ケ崎の退き口もこのころ(元亀元年1570)ですね。金ケ崎のくだりも『麒麟がくる』でどのように描かれるのか。佐々木蔵之介演じる秀吉とどんなふうに絡むか楽しみですね。
B 歴史の流れとしては、その後、姉川の合戦があり、さらに本願寺顕如が反信長の兵をあげる。正親町(おおぎまち)天皇による勅命講和もある。
A 延暦寺の焼き討ちもあります。これは光秀が攻め手ですし、見せ場が多すぎますね。どこかが省略されるんでしょうね。
B そうこうするうちに、元亀3年(1572)。信長と足利義昭の関係が破綻します。
A 信玄が反信長に転じるのはこの年なんでしたっけ? 大河『武田信玄』(88年)で右往左往する信長(石橋凌・演)が記憶にあります。信玄が西上を開始して、三方ヶ原で家康に大勝する。本願寺など信長のまわりは敵だらけ。でも歴史って面白いですね。信玄が亡くなって信長包囲網は瓦解してしまう。歴史に「もしも」を持ち込むのはタブーですが、信玄があと1年でも長生きしていたら歴史はどうなっていたんでしょう・・・・・・。
B 信長包囲網が『麒麟がくる』でどう描かれるかって話が脱線しちゃいましたね。
A 脱線ついでにいうと、三方ヶ原で信玄は家康を破りましたが、信玄に呼応して近江に出陣していた朝倉義景が越前に帰国してしまう。信玄が激怒する事件ですね。包囲網が一枚岩だったらと思うと・・・・。ともあれ、信長包囲網をしっかりドラマに入れ込むのは難しいかもしれませんね。きちんとやったら『武田信玄』になっちゃう。でも信長包囲網の呼びかけ人の将軍足利義昭は『麒麟がくる』ではしっかり登場しそうですね。滝藤賢一さんが演じるそうです。
B 『国盗り物語』では伊丹十三さんが足利義昭を演じました。『秀吉』(96年)では玉置浩二さん、『江 姫たちの戦国』では和泉元彌さんが演じています。
A 玉置さんの義昭は奇声を発したり、印象的な義昭でした。和泉元彌さんが演じた義昭は出番こそ少なかったですが、亡命先の備後・鞆に滞在している場面がありました。ここ、すごく重要ですよね。
B 『江』はファンタジー大河などといって批判されましたが、信長の馬揃えを絢爛に描いたり、義昭の鞆の浦滞在を登場させたり、「大河の矜持」は保っていたように思います。
A 鞆の浦には取材で行ったことがありますが、山中鹿介の首塚があります。鹿介は尼子氏再興を目論んで毛利相手に戦いましたが、現在の岡山県高梁市で討ち取られてしまう。首を取った毛利輝元は鞆の浦に滞在する義昭にも首実検してもらったので、首塚が鞆の浦にあるというわけです。最初は、なぜこんなところに首塚が? と思いました。
B 『麒麟がくる』で鞆の浦滞在時の義昭の話、つまり「鞆幕府」が登場するかどうかは見ものですね。
A もっといえば、近年、本能寺の変の原因ともいわれている信長の「四国政策の転換」が描かれるかどうかも気になります。土佐の長宗我部の面々が出てくるかどうか。
B 長宗我部が出てきたら・・・・・。なんかすごいことになりそうですね。
A 制作陣は、エンタメ、カラフル、リアリティを標榜しているそうです。
エンタメで面白く、目で楽しめるカラフルさに、見応えのある戦国のリアルを追求してほしいです。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。
●編集者B 歴史書籍編集プロダクション「三猿舎」代表の安田清人氏。初めて通しで視聴した大河ドラマは『黄金の日日』(78年)。毎年大河関連本の編集に携わっている。