取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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リスペクトし合う夫婦仲、夫婦関係は良好
今回、お話を伺った、西田誠一郎さん(仮名・62歳)は、都内の私立大学を卒業後、大手建設会社を定年退職して2年になる。現在は、3歳年上の妻と悠々自適の生活をしている。
「定年と同時に、長野県にログハウスの古い別荘を数百万円で買って、自分でいろいろ直すのが楽しくてね。東京育ちの妻は『そんな田舎、嫌よ』と絶対に来ない。結婚35年になるし、30代の娘2人も結婚し、独立している。妻には仕事もあるし、趣味の世界もある。ひとりで、木曜日から月曜日まで長野の山奥で、ひたすら家の修理をしているのが、今の幸せ」
奥様の仕事は、自宅でクレイアートを教えること。
「美術系の短大を出ているから、手先が器用でね。僕は現役時代、長期で海外に単身赴任に行くことが多く、その間に家でボタニカルアートだ、デコパージュだとママさん連中に教え始めて、あっという間に仕事にしてしまった。今はカルチャーセンターで教えたりね。土日が稼ぎ時だし、僕が家にいると妻が気を遣う。だから、僕はあまり家にいない方がいいんだよ」
とはいえ、夫婦関係は良好だ。誠一郎さんが着ているシャツはパリッとしており、黒の靴下の色は褪せていない。健康な食生活をしている人ならではの、中肉中背の体型と、つやつやの顔色。毛髪は寂しいものの、全体的に若々しい。
「今日もこれから、妻とは銀座で待ち合わせて、食事をするんだけれど、まあなんというか、妻は私の分身。いわゆる夫婦関係は、30代の半ば以降はご無沙汰。妻はもともと、さっぱりした人で、それでいいと言う。2年くらい前の夏に、一緒に妻とテレビを観ていて、国民的人気芸人が、『セックスレスになってからでしょう、本当の夫婦は』と発言していて、お互い顔を見合わせて笑っちゃったよ。そんな感じ」
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