文/池上信次

引き続き、バート・バカラック作曲の「ジャズ」スタンダード曲を紹介します。今回紹介するのは「アルフィー(原題:Alfie)」。作詞はハル・デヴィッドです。この曲は、1966年公開のイギリス映画『アルフィー』の主題歌です。イギリス版の映画ではシラ・ブラックが、アメリカ版ではシェールが歌ったヴァージョンが使われました。同年にはディオンヌ・ワーウィックがカヴァーしてシングルをリリースし、いずれもヒットしました。ちなみに映画の劇中音楽の方は、ソニー・ロリンズが担当していて、ロリンズが作曲した「アルフィーのテーマ」もジャズ・ファンにはよく知られるところです。

また、1996年のTBSのテレビドラマ『協奏曲』(出演:田村正和・木村拓哉・宮沢りえ)の主題歌としてヴァネッサ・ウィリアムスが歌ったヴァージョンをご記憶の方も多いかも。ちなみにこのドラマは、劇中音楽全曲がバカラックの楽曲というのも注目されました。

「アルフィー」のポップス・ヒット直後の、ジャズ・ミュージシャンの録音を拾ってみます。まずヴォーカルから(年は録音年/バカラック曲集アルバムを除く)。

1)カーメン・マクレエ(vo)『アルフィー(シングル)』(メインストリーム/1966年)
2)サラ・ヴォーン(vo)『イッツ・ア・マンズ・ワールド』(マーキュリー/1967年)
3)モニカ・ゼタールンド(vo)『モニカ・ゼタールンド』(フィリップス/1967年)
4)ナンシー・ウィルソン(vo)『ジャスト・フォー・ナウ』(キャピトル/1967年)
5)ブロッサム・ディアリー(vo)『スーン・イッツ・ゴナ・レイン』(フォンタナ/1967年)
6)トニー・ベネット(vo)『アイヴ・ガッタ・ビー・ミー』(コロンビア/1969年)


ビル・エヴァンス『カリフォルニア・ヒア・アイ・カム』(ヴァーヴ)
演奏:ビル・エヴァンス(ピアノ)、エディ・ゴメス(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1967年8月17、18日
エヴァンスの死後82年に発表された、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤。スタジオでソロ作『続・自己との対話』を録音した直後、ライヴではトリオでくつろいだ演奏を披露していました。現在のCDは同じジャケットで『ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード・セッション’67』というタイトルになっています。

インストでは……。

7)ラムゼイ・ルイス(p)『アップ・ポップス』(カデット/1967年)
8)ビル・エヴァンス(p)『カリフォルニア・ヒア・アイ・カム』(ヴァーヴ/1967年)
9)ローランド・カーク(sax)『ビューティフル・イーディス』(ヴァーヴ/1967年)
10)ウィリス・ジャクソン(ts)『ソウル・グラバー』(プレスティッジ/1967年)
11)メイナード・ファーガソン(tp)『ライディン・ハイ』(エンタープライズ/1968年)
12)ビル・エヴァンス(p)『アナザー・タイム』(レゾナンス/1968年)
13)ジョニー・ハモンド・スミス(organ)『ソウル・フラワーズ』(プレスティッジ/1968年)
14)バディ・リッチ・ビッグ・バンド(big band)『マーシー・マーシー』(ワールドパシフィック/1968年)
15)ビル・エヴァンス(p)『モントルーⅡ』(CTI/1970年)

ラヴ・ソングですからヴォーカルが多いのは当然としても、インストで同じポップス曲がこれほど集中して録音されていることはあまりないのではないでしょうか。これは「歌」としてはもちろん、メロディだけでもとても魅力的であるということですね。

ビル・エヴァンスは3枚ありますが、いずれもライヴ録音です。エヴァンスはいち早くライヴ用レパートリーとして取り入れたのですね(『モントルーⅡ』のほかはエヴァンスの死後にリリースされたアルバム)。その後も74年の録音が残されていますので、エヴァンスの愛奏曲になったのでしょうが、スタジオでの録音がないところを見ると、「アルフィー」は当時の「観客のウケがいい」曲だったということの表れでもあると思います。


ジョン・スコフィールド『アンルート』(ヴァーヴ)
演奏:ジョン・スコフィールド(ギター)、スティーヴ・スワロー(ベース)、ビル・スチュワート(ドラムス)
録音:2003年12月
ニューヨーク・ブルーノートでのライヴ録音。この時期のスコフィールドにしては異例ともいえるストレートなジャズ・フォーマットの演奏で、スロー・テンポでじっくりとメロディを歌い上げています。

だからといって、これは「1960年代に流行ったジャズ・スタンダード」の枠に収まってしまう曲かというとさにあらず。21世紀になっても有名どころが続々と取り上げていて、ますますジャズ・スタンダードとしての存在感は高まっています。こんな演奏があります。

16)ラッセル・マローン(g)『ルック・フーズ・ヒア』(ヴァーヴ/1999年)
17)ブラッド・メルドー(p)『ライヴ・イン・トーキョー』(ノンサッチ/2003年)
18)ジョン・スコフィールド(g)『アンルート』(ヴァーヴ/2003年)
19)ブラッド・メルドー(p)『デイ・イズ・ダン』(ノンサッチ/2005年)
20)ウルフ・ワケニウス(g)『エタニティ』(スパイス・オブ・ライフ/2005年)
21)マーティン・テイラー(g)『ダブル・スタンダード』(P3ミュージック/2008年)
22)パット・メセニー(g)『ホワッツ・イット・オール・アバウト』(ノンサッチ/2011年)
23)アール・クルー(g)『ハンド・ピックド』(ヘッズアップ/2013年)

ギターばかりでしかもソロやデュオが多いのは、楽器の機能上の面白さがあるのかな? それはわかりませんが、ブラッド・メルドー、ジョン・スコフィールド、パット・メセニーという現在の巨人たちにバカラックという共通項があるのはじつに興味深いところです。

このなかのメセニーの『ホワッツ・イット・オール・アバウト』は、メセニー初のポップス曲集ですが、「選んだ曲はすべて、どんな方法で演奏したとしても、音楽という根本的な次元で、単純にヒップでかっこいいなにかを持っている」(プレスリリースより)という、深く考えられた「厳選」名曲集なのです。「アルフィー」の始まりの歌詞は、「ホワッツ・イット・オール・アバウト、アルフィー?」(作詞:ハル・デヴィッド)。メセニーはこれをアルバム・タイトルにしました。「アルフィー」は、メセニーお墨付きのポップス名曲中の名曲なのです。


『ポップス発祥のジャズ・スタンダード「曲」』の記事リンク集

【 ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道150~156】

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文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

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