文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1068871)は、スティングのザ・ポリス以降のジャズでの活動を紹介しましたが、ではザ・ポリスのほかのメンバーはどうだったのか。今回はギタリストのアンディ・サマーズの活動を紹介します。ザ・ポリスの活動停止後しばらくは、サマーズの活動はとくに目立ったところはなかったのですが(というか、スティングの大ヒットの陰に隠れてしまった感があります)、その活動がどんどん「ジャズ」に向かっていったことはジャズ・ファンにはあまり知られていないのではないでしょうか。少なくともジャズのメディアで取り上げられることは多くなかったのは事実です。じつはサマーズの(も)ルーツにはジャズがあったのです。

サマーズはポリス在籍中にロバート・フリップ(キング・クリムゾン)との共演アルバムを2枚リリース、解散後の1987年には『XYZ』(MCA)を発表し、その後1995年までに全部で5枚のソロ名義のアルバムをリリースしました。1990年の『チャーミング・スネイクス』ではハービー・ハンコック(ピアノ)やビル・エヴァンス(サックス)が参加していますが、このあたりまでのサウンド(とくにギター)はロックといっていいものでした。そして1993年にサマーズは、ジョン・エサリッジとアコースティック・ギター・デュオ・アルバム『インヴィジブル・スレッズ』(メサ)をリリースします。そこではセロニアス・モンクの「モンクス・ムード」やジャンゴ・ラインハルトの「ヌアージ」を演奏していますが、アコースティックだからジャズも演るのか、というくらいの印象でした。

そして、1997年の『ザ・ラスト・ダンス・オブ・ミスターX』(BMG)でサマーズは大きな方向転換を印象づけます。アルバム・タイトルだけ見るとロックの感じがするんですが、じつはこれ、濃いジャズ・アルバムなのです。収録曲は「ザ・スリー・マリアズ」「フットプリンツ」(ともにウェイン・ショーター作曲)、「ウィ・シー」(セロニアス・モンク作曲)、「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」(チャールズ・ミンガス作曲)、ジョン・コルトレーンの演奏で知られる「アフロ・ブルー」、そして「ロンリー・ウーマン」(オーネット・コールマン作曲ではなく、ホレス・シルヴァー作曲のほうです)などいった、ジャズ通好みの曲がずらり。ちょっと意外ですよね。

アンディ・サマーズは1942年イギリス生まれ。ザ・ポリスのほかのメンバー、スティングは1951年、スチュワート・コープランドは1952年生まれなので、サマーズは一世代上なんですね。よりジャズに近い世代といえますし、サマーズのサイトには「最初に大きな影響を受けた音楽はジャズ」とのコメントもあります。ザ・ポリスでは、ジャズ的なアプローチはほとんどないといってもいいギター・プレイでしたので、当時はジャズはあえて封印していたと見たほうが面白いかもしれません。

その後1999年には、セロニアス・モンク曲集の『グリーン・チムニーズ – モンク・ソング』をリリースしました。先のサイトには、「16歳のときにモンクを初めて聴いて、ノックアウトされた」「モンクがロンドンに来た時、6時間電車に乗って聴きに行った」とコメントがあります。


アンディ・サマーズ『グリーン・チムニーズ – モンク・ソング』(BMG)
演奏:アンディ・サマーズ(ギター)、デイヴ・カーペンター(ベース)、ピーター・アースキン(ドラムス)、ジョーイ・デフランセスコ(オルガン)ほか
発表:1999年
タイトル曲をはじめ、セロニアス・モンクの名曲がずらりと並びます。「ラウンド・ミッドナイト」は、なんとスティングのヴォーカルをフィーチャー。


そして、2000年にはチャールズ・ミンガス曲集『ペギーズ・ブルー・スカイライト』をリリースしています。このアルバムは収録12曲の全曲がミンガスの楽曲です。デボラ・ハリーやQ-Tipをヴォーカルで、またクロノス・カルテットやジャズ・パッセンジャーズ、ハンク・ロバーツ(チェロ)をフィーチャーするなど、こんなに気合の入ったミンガス曲集は、ジャズのカテゴリでもなかなかないのではないでしょうか。また、同年リリースのオムニバス・アルバム『ザ・ミュージック・オブ・キース・ジャレット』(BMG)にも1曲参加するなど、当時のサマーズはまったく「ジャズ・ギタリスト」なのです。

ミンガスの次は、『アース・アンド・スカイ』(ゴールデンワイア)を2003年にリリース。こちらは一転、全曲サマーズのオリジナル。ジョン・ヴィーズリー(キーボード)、ジョン・ノヴェロ(キーボード)、エイブラハム・ラボリエル(ベース)、ヴィニー・カリウタ(ドラムス)らをバックに、キレ味のいいジャズ・フュージョンを聴かせています。「ザ・ポリスのギター」のイメージはまったく感じられません。

と、こう書くと「ジャズに戻った」などと思い込んでしまいそうなんですが、実際はこれらジャズの一方で、1998年からはブラジルのギタリストとの共演アルバムや、ボサ・ノヴァ・アルバム(ホベルト・メネスカルとボサ・ノヴァ・スタンダードを演っていたり)もたくさんリリースしているんですね。さらにはクラシック・ギタリストとの共演アルバムまであるのです。ジャズだけにとどまらない、とんでもない幅の広さなのでした。最新作は昨年2021年リリースの『ハーモニクス・オブ・ザ・ナイト』(フリッカリングシャドウ)。そこでは20分超のソロ・インプロヴィゼーションやミニマル・ミュージックを含む多彩なギター・アプローチを聴かせています。「元ザ・ポリスのギタリストがジャズをやっている!?」なんていうのは、視野の狭いジャズおやじの感覚でしかないのでした。まあ、一度出来上がったザ・ポリスという看板があまりにも大きかった、ということなんですが、そこにこだわるのは音楽の楽しみを狭めてしまうなあと反省しきり。音楽を楽しむためには、先入観はほどほどに。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

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