文/山本益博

「フランス料理が苦手です」という方に、その理由を聞くと、一昔前は、食事の時間が長くて間が持たない、マナーがよくわからない、という答えが返ってくるものでした。

今ではそんなことをおっしゃる方はさすがにいませんが、ワインリストを見ても何を選べばいいのか見当がつかず、恥をかきたくない、という方は、昔も今も変わりないようです。

私もフランス料理を食べ始めた20代半ばの頃は、ほとんどワインが飲めなかったこともありますが、ソムリエからワインリストを渡されると「第一関門がやって来た」と思ったものでした。

しかし、ワインは知識を深めると味わいも深まる“頭のなかを通過する酒”であることを知ったとき、もっと多くを味わいたい欲求が出てきました。

最初は赤ワイン白ワインの区別しかつかなかった自分が、ボルドー、ブルゴーニュの違いから、品種をかぎ分ける、果てはアロマとブーケの違いなどまで理解できるようになりました。正直、そんな自分に驚きました。

ワインの楽しみ方を覚えるにつれて、飲む量も次第に増えてゆき、ワインとはただ酔うためにあるのではなく、知識を磨き、自分の教養を豊かにしてくれる酒であることがわかってきたのです。こうなると、レストランへ出かけてワインリストを開くのが楽しくなりました。

*  *  *

とはいえ、今回はワインリストの読み方を伝授しようというわけではありません。“ワインリストを見なくても大丈夫な方法”をお知らせいたします。

それは、ソムリエに「料理を邪魔しない、手頃なワインをお願いいたします」と聞くこと。ずばり、これが一番です。ワイン生産地に近いレストランでしたら、これに「地元の」を付け加えます。

ここで決して「料理に合うワインを」などと聞いてはなりません。高価なワインを薦められたとき、これでは断りきれませんから。

もし、あなたに度胸がおありなら「リーズナブルで飲みやすいワインを」というのはいかがでしょうか? デートではなく、仲間とでしたらこれでいけますね。

ちなみに、今、私はどの店に出かけても「4桁のワイン」しか選びませんし、注文しません。高級なレストランへ出かければ、必ず一番安いワインをお願いします。上質なレストランであれば、ソムリエが店の料理を考えた上で、山の頂上ではない、裾野にあるようなワインを見つけてきて、ワインリストに載せているはずだからです。世界に名だたるワインを揃えることは高級店では簡単ですが、廉価で上質なワインを買い付けてくるのも、ソムリエの腕というものです。

(内緒でお伝えしますが、銀座『ロオジエ』で私がいつも注文するワインは、コート・デュ・ローヌはシャトーヌフ・デユ・パップの「ピアラード」。知る人ぞ知るワインで、1本6500円。『ロオジエ』では最安値です。今、飲み頃の2004年がワインリストに載っていますので、もし行かれる方はご参考までに!)

文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。

イラスト/石野てん子

 

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