写真・文/山本益博
私は、真冬には日本料理屋さんへ足が向かなくなります。
なぜかというと、春の筍、秋の松茸のような季節ならではの優しい食材が少なく、その代わり、いくら、かずのこ、からすみ、ふぐの白子、たらの菊子などの珍味のオンパレードで、料理人の腕前を楽しむのが二の次になりがちだからです。
それでも真冬の珍味を楽しみたい気持ちは失っていません。そんな時は、白子や菊子のてんぷらで満喫します。
牡蠣も冬にはなくてはならない日本料理の食材ですが、水分が多いので、揚げるのは技がいります。年を越して、栄養をたっぷりと身に付けた牡蠣のてんぷらの美味しさは格別です。
てんぷらの常連であおやぎ(通称ばか貝)の「こばしら」は通年のてん種ですが、冬の「こばしら」は甘みと味わいが濃いです。小海老や三つ葉などと一緒にせずに、「こばしら」だけをかきあげにしたてんぷらは、甘みが膨らんで他に例えようもない美味しさです。
さつまいもは根菜ですから、冬が旬の野菜ですね。子供のころは寒い日の「焼き芋」には心がときめいたものですが、今でしたらこんがりと揚げたさつまいもに心惹かれます。長時間油の中に入っていましたから、熱さは半端ではありません。それをふうふう言いながら食べる。さつまいものでんぷん質が麦芽糖に替わると、芋ならではの甘みが味わえます。さつまいもの切り身は、薄くても厚すぎてもいけません。高度な技を必要とする「精進揚げ」です。