写真・文/山本益博
今から40年ほど前、「東京味のグランプリ」という食べ歩きのガイドブックを出していました。「すし、そば、てんぷら、うなぎ」と言った東京の郷土料理に「とんかつ、ラーメン」を加えた6ジャンルの料理を、毎日食べ歩いていました。
1か月先までお店のスケジュールを決めていたのですが、空が澄みわたった秋晴れの日など勝手に「てんぷら日和」と呼んで、予定を変更して「てんぷら」を食べに出かけたくなることが幾度もありました。
秋晴れの日に食べたくなるてんぷらと言えば、「めごち」「はぜ」といった小魚です。東京湾の波の静かな海で育った小魚たちは、骨が固くないため、尻尾まで美味しくいただけます。というか、からりと揚がった尻尾が一番のご馳走だったりします。いま、「めごち」は滅法高級魚になり、「はぜ」も獲れなくなりつつあります。東京湾が再生されることを祈るばかりです。
野菜で言えば、「茄子」でしょうか。野菜の揚げ物は、正しくは「てんぷら」ではなく「精進揚げ」と呼ばれます。「茄子」が見事に揚げられたものをいただくと、茄子の香りが高く、甘く、「精進揚げ」の王様ではないかしらん、と思うほどに感激します。
そして、忘れられないのが「松茸」です。「松茸」の食べ方はいろいろありますが、1本揚げの松茸をいただくと、松茸のエッセンスがすべて閉じ込められていたため、香りが驚くほど高く、がぶりと噛めば、熱々のジュースが溢れ、「松茸」料理はこれに極まるという感がします。