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山本益博|「江戸前」の握り鮨は、「まぐろ」がないと始まらない。【食いしん坊の作法 第13回】

写真・文/山本益博

すきやばし次郎のまぐろ赤身

すきやばし次郎のまぐろ赤身

今は、「おまかせ」の握りになると、鮨職人が白身のひらめやかれいから握り始めることが多くなりましたが、30年ほど前までは、それが「まぐろ」でした。自ら食べたいものを注文する「お好み」で鮨を握ってもらうときでも、「まぐろ」が圧倒的でした。まさに、「まぐろ」は「江戸前」の握り鮨の代名詞ですね。

その「まぐろ」も中とろがほとんどで、赤身を注文するお客は少数派でした。冷凍物のまぐろが幅を利かすようになって、脂ののってない赤身は、味わいがもう一つだったためです。本来の赤身は程よい酸味があって、酢めしとの相性が抜群でした。

そもそも、冷蔵庫がなかった時代、まぐろをどこで保存しておいたかというと、脂身の多い、いわゆる大とろの部分を切り落とし、赤身中心の塊を醤油樽に漬けていました。まぐろを握るとき、真っ黒になった表面を切り落としてから握ると、赤身のまぐろの鉄分と醤油の酸味が美味しさを倍増させることを見つけて、「漬けまぐろ」と呼び、珍重しました。それが「づけ」の語源です。

保冷庫や冷蔵庫が発達したいまでも、わざわざ短い時間、醤油に漬けて握る「づけ」は、「江戸前」の握り鮨には欠かせない一貫です。

後楽寿司 やす秀のまぐろ赤身

後楽寿司 やす秀のまぐろ赤身

ちなみに、まぐろの塊を握りや刺身用に小さな大きさに切り分けますが、これを「さく取り」と言います。長方形のブロックなのですが、切り身の長さは二寸五分、約7センチです。

この長さで握った鮨は、「舌先三寸」の口の中へ一口ですっぽりと収まります。これも「江戸前」の本寸法です。まぐろの両端がだらりと舞妓さんの帯のように伸びたまぐろは、なんとも「野暮天」ですね。

写真・文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。

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