文/晏生莉衣
新型コロナウイルス感染拡大で私たちの生活は激変してしまいました。長引く自粛生活で強いられる制限や先の見えない不安感から生まれるストレスを抱えながらの日々が続きます。でも、こんな時だからこそ、希望を失わず、前向きな心を保つことが大切です。そのためのヒントとして、前回紹介した個人で行う大人向けのストレス対策に続いて、今回は家族でいっしょに取り組む子ども向けのプロジェクトを紹介したいと思います。
「自分になにができるか」を考える
ウイルス感染危機の最前線で働く医療従事者の方々をはじめ、
日本でも、“stay at home” で家族がいっしょにいる時間が多くなりましたので、その状況を積極的に有効利用して、エッセンシャルワーカーズに感謝するプロジェクトに家族で取り組んでみることができます。まず、子どもたちが「自分たちにどんなことができるか」を考えて、どんどんアイディアを出します。親はそれが実行可能かどうか、一つ一ついっしょに考えて、アドバイスをします。そのようにして家族でいろいろと話し合ってから、無理のない範囲で自分たちができることを決めていきましょう。
海外で実際に行われているプロジェクトを含めたアイディアを次に紹介しますので、家族での取り組みのご参考にしてください。
○「感謝と応援のポスターを作る」
エッセンシャルワーカーズの方々への感謝と応援メッセージを描いたポスターを作り、家族の誰かが使っているSNSやブログで公開します。お友だちのご家庭にも呼びかけて、いろいろな業種の方々への応援ポスターを作ってコラボ発信することもできるでしょう。
○「家族で動画作成」
家族のコラボで感謝のメッセージや応援歌を作って、プライバシーに注意しながらYouTubeなどの投稿サイトにアップします。顔出ししたくない場合はイメージ画像を使って、動画では声だけ出すという方法を選ぶこともできます。
○「手作りカードで感謝を伝える」
感染防止のために、各種の配送物を対面で渡さずに玄関外に置く方法が取られることが多くなっています。対面で受け渡しをする場合でもなるべく会話は避ける必要があります。そこで、「大変な中、配達、ありがとうございます」というようなお礼のメッセージを書いた小さな手作りカードを家の玄関チャイム付近や郵便受けに貼って、感染リスクの中でハードワークを続ける配達員の方々に感謝を伝えるようにします。
いっしょに取り組むことで、感謝を伝えるという目的以外にも、作業のプロセスを家族で楽しめるという大きなメリットがあります。家族間の有意義なコミュニケーションが増えて一体感が深まりますし、プロジェクトに参加することで大人も共感力を忘れないようにするのに役立ちますので、一石二鳥どころか三鳥、四鳥にもなりますね。
当事者の声を聞く機会を増やせれば
さて、子どもの共感力を豊かに育てる助けとなるのが、広い視点から集められた正しい情報です。これはSocial Emotional Learning(SEL:社会的・情緒的学習)(レッスン3参照)の研究からも指摘されている点で、正しい情報をもとに、相手を、あるいは社会の出来事をよく理解することが、共感力を育てる学習過程の最初のステップです。ところが実際の社会では、正しい情報が不足しているのが原因でスティグマ行為が起こってしまうことが多々あります。相手のことをよく知らないから偏見を抱いてしまうといったケースです。
エッセンシャルワーカーズやそのご家族、そして、感染者のご家族や感染後に回復された方々などに対してスティグマ行為が行われている問題についても、これと同様のことが言えます。回復された方々がご自身の症状やそのつらさなどについて話される動画が少しずつ公開されていますが、欧米の情報量に比べると、日本ではこうした当事者からもたらされる貴重な情報に触れる機会は多くありません。それ以上に不足しているのが、感染者治療の最前線に立って戦っていらっしゃる医師や看護師、検査技師などの方々がどんな過酷な日々を送られているのか、どのようなご苦労があるのか、感染でご家族を亡くされたご遺族がどんな悲しみを味わわれたのか、そうした当事者のご経験にもとづく情報です。日本の今の状況では、当事者の方々の生の声が広く社会に伝わっていないゆえに、過酷な実態について十分に理解が進まないというマイナス面が認められます。
寝食を忘れて極限状態で働き続けてくださっている医療従事者の方々に情報発信をお願いするのはとてもむずかしいことですが、医療現場からの情報発信がこれから積極的にされれば、新型コロナウイルスに関するさらなる意識向上のために活用でき、スティグマ行為防止にも大きな助けになるはずです。大変機微なことですので、発言者のプライバシーを守る観点と、変に不安をあおるような報道すればスティグマ行為が逆に増えてしまう懸念があることから、医師会などの専門的な機関によってとりまとめられるのがベストと考えられますが、すでに神奈川県医師会のように独自の情報発信を始められたところもあります。
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日本では、医療従事者への感謝を込めてタワーなどのランドマークを青くライトアップする試みがバラバラと行われるようになりましたが、タワーが青くなっただけで終わらせないために、個々の力でできる「なにか」の輪が広がっていけばうれしいですね。人との接触はなるべく避けなければいけない今だからこそ、共感力を失わないことが、とても大切です。
文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。