母親が第一に考えるのはいつも妹。好きになってもらうため、良い子じゃないといけない

小さい頃の父親とのエピソードは出てくる一方、母親との思い出を樹さん自身から話し出すことはありませんでした。専業主婦だったという母親との接点のほうが多いはずですが。

「母親は妹や祖母など他のことばかりで、私とは、変な言い方かもしれませんが接点があまりなかったんです。小学生の高学年ぐらいだったと思いますが、母親から『樹は良い子だから、妹ほど手がかからなくて助かっている』と言われたことをずっと覚えていて。言われた時は特に意識はしていなかったんですが、母親は私よりも妹のほうが好きなんだって徐々に強く思うようになってしまった気がします」

樹さんが母親の言葉通り、大きな反抗もなくとにかく“良い子”だったそう。しかしそれには大きな我慢も必要だったとのこと。

「小学校に入る前にランドセルを買ってもらうじゃないですか。私の時は今みたいにさまざまな色のものはなくて、男の子は黒、女の子は赤と決まっていたんですが、赤の中にもピンク色っぽいものやよく見るとチェックが入っているものなどがあって、私は近所のデパートでいつもかわいいなって、あれが欲しいなって思っているものがずっとあったんです。両親にもそのことを伝えていたから、いつ買ってくれるのかワクワクしていました。でも、その少し前に何も知らなかった祖母から別のランドセルをプレゼントされて……。どんな場面かは覚えていないんですが、両親が祖母にお礼を言っている姿などを見て、喜ばないといけないと思いました。実はすごくショックだったけど、それを出したらいけないと、その真っ赤なランドセルを好きになろうと必死だったことを覚えています」

さらにショックなことがランドセルがらみで起こったと言います。

「妹が私の欲しかったランドセルを買ってもらったんですよ。祖母は妹のランドセルも買うつもりだったのを母親が断っていました。母親からしたら何度も祖母に頼るのは悪いという思いがあったことも今ならわかるんですが、あの時は妹のために、私の時にはしてくれなかったことを母親がしていたという部分ばかり気になって。そこから妹よりも好かれるためには、より良い子じゃないといけないという思いが強くなっていきました」

反抗期もなく良い子を貫く樹さん。いじめられていることを両親に伝えることもできず、大人になってからも両親からの結婚への干渉を笑顔で受け続けることになり……。~その2~に続きます。】

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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