■有料老人ホームが父の終の棲家に
母親のために、自宅の駐車場をスロープにして車いすでも出入りできるようにしていたので、父親を介護する環境は整っていた。だが、父親が自宅に戻ることはかなわなかった。
トイレに行くのも、着替えるのも、ベッドから車いすに移乗するのも、父親一人ではできない。常に誰かの介助が必要だったからだ。
母親が亡くなったあと、宍戸さん兄妹は相談し、生活環境の整っている施設を探すことにした。いくつかの特別養護老人ホーム(特養)と、有料老人ホームに申し込んだ。
「残念なことに、リハビリが充実している有料老人ホームは見つかりませんでした。結局自宅から近い有料老人ホームを選びました。小規模で、ほかの入居者や職員の顔が見えるのが安心できましたし、寝たきりの入居者がいなくて、食堂まで行ける方ばかりだったので、生活のイメージができたのが決め手になりました」
前払金はそう高額ではなかったが、月額料金は25万円ほどかかる。父親の年金では足りなかったため、父が相続して持っていた土地を処分することにした。
父親はそのホームで4年ほど生活し、昨年末亡くなった。
「それまで何も親孝行らしいことはできませんでしたので、両親の看護や介護はここが“親孝行のしどき”だと思いました。私が北野大先生に呼ばれて、先生の大学で講演をしたときは、父も喜んでくれて、自慢していたと職員さんから聞きました。少しは親孝行になったのかなと思います。ただ父親には、政治家を目指すことは伝えませんでした。言えば止められると思ったからです」
老健や回復期のリハビリ病院では、リハビリの時間に制限があって、それ以上はリハビリを受けることができない。いくらやる気があっても一律にダメというのは納得できない、せめて自費ででもできるようにしたいと宍戸さんは考えている。政治家になることで、仕事をしながら介護をするなかでぶつかったさまざまな課題を少しでも解決したいと思ったが、今回はあと一歩届かなかった。
宍戸さんがこれまで行ってきた介護は、直接自分が行う介護ではない。リハビリと並行して、父親の認知能力を高める脳トレ本などを一緒にやったりもしたが、力を入れたのは親の生活環境を整え、リハビリの効果を引き出すために、より良い施設や病院を探すことだった。介護をしながら仕事を続けるには、これらの情報を集め、比較し、判断することがカギになったと言えるだろう。そのために介護休暇や介護休業をうまく使うことも大切だ。宍戸さんから学ぶことは多い。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。