取材・文/ふじのあやこ

【娘のきもち】祖父の葬式で見せた父の気丈な姿「今までしっかり親孝行をしたから、後悔はない」~その2~

家族との関係を娘目線で振り返る本連載。幼少期、思春期を経て、親に感じていた気持ちを探ります。~その1~はコチラ

今回お話を伺ったのは、北海道札幌市の病院にて医療事務の仕事をしている梨華さん(仮名・36歳)。北海道釧路市出身で、両親と4歳上に姉、3歳下に弟のいる5人家族。小さい頃からパパっ子だった梨華さんは父親の会社の社員旅行に一緒に参加するほどだったとか。高校卒業後の進路で家族との小さなしこりができますが、就職を選び、そのまま17年同じ職場で働き続けます。社内には知り合いばかり、慣れ親しんだ場所の居心地は良かったものの、ふとした瞬間に思うことがあったと言います。

「贅沢な悩みかもしれませんが、同じことの繰り返しがふとした瞬間につまらなくなるんです。その度に転職したいなって思うようになっていました。でも、それは思うだけで行動に起こそうとはあまり考えていませんでした。でも、ちょっとした持病があり、その病気が悪化してしまって……。その時に休職しないといけないんだったら辞めたほうがいいのかもしれないと思ったんですよ」

流れるように決まってしまった札幌行きを母親は反対し、父親は背中を押してくれた

仕事を辞めると決めた時も両親の反対は特になかったそう。梨華さんは仕事を辞めている間に医療事務の資格を取るために学校に通い、その後資格を無事取得。再就職するエリアはもちろん釧路。しかし、再び就活を始めた時にある壁にぶつかったそうです。

「釧路には資格を生かせる仕事で正社員がなかったんです。そこから少しずつエリアを広げていきました。でもあくまで実家から通えるところで探していたんです。でも、どんどん範囲が広がっていくにつれて実家から通うことが厳しくなり、どうせ家を出るならと、札幌の求人にも目を向け始めました。そしてある札幌の医療事務の求人を見つけて、面接を受けたら……、受かってしまったんですよ」

親への報告は就職が決まった後。札幌行きを母親の反対にはあったものの、父へちゃんと相談したことで父親は背中を教えてくれます。札幌での生活に慣れるのはそんなに時間はかからなかったと言います。

「母親は弟、男には地元を離れて暮らすことは仕方ないにしても、娘にはずっと側にいてほしいと思っていたみたいで、『なんで札幌に?』と疑問をぶつけられましたね。でも、父親は『自分の好きなように頑張りなさい』とここでも味方になってくれました。
札幌での生活は2~3か月は寂しくて仕方なかったです。でも、あまり両親に連絡は取らなかったかな。今まで何かあると母親は何でも報告してくれるタイプだったので、私から連絡するのがなんとなくできなくて。でもその分、母親と似ている姉が両親の近況を逐一報告してくれていたんですよ。間接的でも、それを聞くことで寂しくなかったというのもありますね」

父のように親の葬式で胸を張りたい。父のようになりたいと思い続けた理由

生まれてから札幌に行くまで実家で過ごした35年間の間、梨華さんはできる限り親との時間を持つようにしていたそう。そこにはある父の考えへの共感があったと言います。

「実はうちの家は父親が6人兄妹の四男で、母親は妹のいる2人姉妹ということもあり、父は婿養子でした。うちの両親の実家はともに漁師をしていたと言いましたが、父の兄妹で水産科に行ったのは父だけで、学生の頃から親の仕事をずっと手伝っていました。それは婿養子に入ってからも続けて、朝3時に起きて祖父の漁業を手伝い、その後自分の仕事に出かけていたんです。そんなに毎日忙しく過ごしているのに、家族サービスもしっかりしてくれていましたから。そんな父親の姿を本当に尊敬していました。祖父も婿養子にいかしたことを後悔しているぐらいでしたね。

その祖父が亡くなった時にお葬式で父親はあまり悲しそうじゃなかったんです。その理由を聞いたら、『今までしっかり親孝行をしたから、後悔はない』と言ったんです。その言葉は絶対に軽く口に出せる言葉じゃないですよね。すごくかっこいいなって思いました。そしてその言葉を聞いてから、私も同じ思いを貫こうとしています。今まで精一杯一緒にいたから、今離れて生活していても変わらない距離を保つことができているかもしれません」

梨華さんは札幌で働きながらも、大型連休には実家に帰省しています。兄妹は現在どこに住んでいるのかを聞くと、「姉はずっと釧路にいて、今は母親に変わって祖父母の世話をしているので実家では暮らしていませんけど、近くに住んでいます。弟は大学4年間は札幌で暮らしていたんですが、就職で釧路に戻ってきましたね。みんな強制されたわけじゃないのに、地元が大好きなんですよ。私も札幌で就職してしまったけど、釧路は今でも大好きです。札幌でも釧路のお店を探してしまうほど。親より地元のほうが恋しいかも」と笑顔で語ります。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

 

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