談/辰巳芳子(料理家)
鎌倉の私の家の玄関には、冬ならりんごやみかん、キャンディなど何かしらカゴに入れて置いてあります。荷物を配達に来てくれる方に、ちょっとした労いの言葉をかけて差し上げると「自分の仕事をわかってくれる人がいる」と喜ばれて、お互いに嬉しくなります。これはひとつの人間の幸せです。
写真のすりこぎの先端をご覧ください。まったく新しい形をしていますが、これが理にかなっていて、とても使いやすいのです。
辰巳家では、子供の頃からゴマ摺りをさせられて、本当に閉口しました。この仕事はいつ終わるのか、とよく見ると、この太い山椒の木のすりこぎは筋目に1センチしか当たっていない、とがっかりしたのを覚えています。
70歳を越えてから、私は生きていきやすさの提案をしたいと思い、それを助けてくれる道具があれば、と考えました。
すりこぎならすり鉢に当たる面積が1センチから3センチになるよう先端を球面にしたらどうか。丸く削れる人といえばこけし職人しかいない。こけしを作ってきた人ならば愛着の持てる道具になるだろう、と思いました。込められているものが違うのです。この提案をこけし職人さんも喜んでくださり、注文のあった4000本ものすりこぎを嬉しく作ってくれました。
このすりこぎは、真ん中がちょっとふくらんでいて、人の手を握ったような形になっています。男の人は奥さんの手を握っているような感じかもしれません。私は、日常の身辺に置くものはすべて人のぬくもりを感じさせるものが良いと思います。自分の感能力をいたわり、感能力を逆撫でするようなものを使わないように、ちょっと気をつけて暮らすことが大切です。
すり鉢も、筋目が細かくなっています。外国でもニンニクを摺ることはよくありますが、筋目のついた乳鉢はないでしょう。こういう日本ならではの道具は、スペインの人なども重宝するのではないかしら。小どんぶりのどんぶり鉢としても使えますから、男の気分にぴったりでしょう。男の人が使い込んで、青ネギの青いところと生味噌を自分で摺った酒の肴などは、香りが立って「やっぱり違う」とわかると思います。
幸せは日頃から少しでも幸福感を持ち上げていくことに気をつけること。幸せはちょっとした工夫の行き着くところ。幸せは人間の関係の美である。そのように道具も料理も考えればいいと思います。
【辰巳芳子さん考案】
「すりこ木とすり鉢」セット
すり鉢セット(大)30,780円(送料別、税込)
すり鉢セット(中)12,960円(送料別、税込)
すり鉢セット(小)5,508円(送料別、税込)
※すり鉢・すりこ木はそれぞれ単独でも購入可能。
【商品についてのお問い合わせ】
SD企画設計研究所
電話/045-450-5331
FAX/045-450-5332
http://www.yk.rim.or.jp/~4_5indij/dougu/suribachi.html
談/辰巳芳子
料理家。1924年生まれ。聖心女子学院卒業。家庭料理、家事差配の名手として今も語り継がれる母、辰巳浜子の傍らにあって料理とその姿勢を我がものとし、独自にフランス、イタリア、スペイン料理も学び、広い視野と深い洞察に基づいて、新聞、雑誌、テレビなどで日本の食に提言しつづけている。近年は、安全で良質の食材を次の世代に用意せねばとの思いから「大豆100粒運動」会長「良い食材を伝える会」会長「確かな味を造る会」の最高顧問を務める。
撮影/小林庸浩
構成/尾崎靖(小学館)
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