談/辰巳芳子(料理家)
夏の酒の肴は、京都の「久在屋」の生湯葉に、長野県松本の「大久保醸造店」の薄口醤油 の「めんつゆ」を少しかけて、柚子胡椒を添えるのがいいですね。アルコールの分解にはタンパク質が欠かせないから、お酒を飲む時にはタンパク質を少し摂った方がいいんです。
湯葉は精進料理の材料のひとつですが、もともと1200年以上前に、最澄が中国から仏教とともに持ち帰ったと言われています。殺生を嫌うお坊さんが食べていた湯葉はとても上質なタンパク質だから、外国の人に教えても、とても喜ばれますね。
豆腐の名店、京都の「久在屋」からは、木綿豆腐、ざる豆腐、生湯葉、油揚げ、豆乳の詰め合わせセットを取り寄せることができます。男の一人暮らしも、このセットを取り寄せれば、生活が豊かになります。
一人暮らしをしている男の人は一生懸命働いたんだから、豊かに暮らすことを心がけるといいですね。豊かに食べることは、自分の働きを有効化してくれます。
薄口醤油をベースにした「大久保醸造店」のめんつゆは、柔らかい味で使い勝手がよく、このめんつゆにお湯をさして油揚げを煮ても、油揚げをめんつゆに浸して焼いてもいい。豆腐の煮やっこにしても美味しい。久在屋のセットとめんつゆだけで1週間楽しめます。
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私は、子供たちが大豆をまいて育てるという「大豆100粒運動」を提唱していますが、この取り組みの講座を開いて、 今は参加者が延べ3万人以上になりました。 久在屋さんもその仲間です。つい去年から始めたのは、豆腐店と農業高校をつないで大豆を増産すること。在来種の大豆をまけば、地産地消をしながら種をつなぐ活動になります。
北海道の真狩高校の生徒たちが育てた大豆で地元の「湧水の里豆腐工房」が豆腐を作り、高校生たちは地元の小学生にも大豆のまき方を教えて、小学生たちが豆蒔きをしています。豆を蒔ける人間を育てるということは、人間を育てるということだと私は思います。
以前、天皇陛下にお目にかかる機会をいただいたとき、話題がなくて困ったことがありました。そうだ、「大豆100粒運動」をご説明申し上げよう、と思ってお話ししたら、ものすごくお喜びになりました。とても興味を持ってくださって、ああ、この方は国民のことを心底考えていらっしゃる、と思いました。
日本海を越えてミサイルが飛んでくるような時代に、 日本人はこんなに油断していいのか、と思います。農業に関心がなかった男性も「大豆をしっかり守っていこう」と思ってくれないとね。
私はこの国に対する愛惜の念から「大豆100粒運動」もやっているけど、あらゆる農産物をどうやったら守れるか、ということを真剣に考えなければいけない時代です。それには自分の資質を小学校時代から育てること。その現場がないと資質は育たない。その意味で、私は「大豆100粒運動」を小学校の生徒たちがやることに、希望があると思っています。
※大豆100粒運動については、 NPO法人「大豆100粒運動を支える会」のホームページをご覧ください。
http://www.daizu100.com
談/辰巳芳子(たつみ・よしこ)
料理家。1924年生まれ。聖心女子学院卒業。家庭料理、家事差配の名手として今も語り継がれる母、辰巳浜子の傍らにあって料理とその姿勢を我がものとし、独自にフランス、イタリア、スペイン料理も学び、広い視野と深い洞察に基づいて、新聞、雑誌、テレビなどで日本 の食に提言しつづけている。 近年は、安全で良質の食材を次の世代に用意せねばとの思いから「大豆100粒運動」会長、「良 い食材を伝える会」会長、「確かな味を造る会」の最高顧問を務める。
【辰巳芳子さん推薦】京都「久在屋」さんの豆腐詰め合わせセット
全国から選りすぐりの大豆をいただき、余分な物は何も加えず、何も引かずに創り上げる、京都にある豆腐の名店から、大地に根ざした物造りに関わる人々の素材を、その土地の味を「手から心へ」伝わるほんまもんを届けてくれます。
※サライ.jp 掲載を記念して特別なセットを販売中です。詳しくは下記サイトをご覧ください。
http://www.kyuzaya.com/SHOP/sarai.html
【辰巳芳子さん推薦】大久保醸造店のめんつゆ
大久保醸造店のめんつゆは、薄口醤油をベースに、そばつゆは濃口醤油を ベースに出汁などを加えて造られる。醤油や味噌は、全国から良質な材料を集めて、 微生物の環境を考えられた蔵で醸造され、「人の手でできるだけ」というポリシーで 貫かれています。辰巳芳子さんが会長を務める「良い食材を伝える会」の大久保文靖氏の妥協のないものづくりが活きています。
また、真狩高校の大豆を使っている「湧水の里豆腐工房」の公式Facebookページは下記のとおりです。
https://www.facebook.com/wakimizunosato/
撮影/小林庸浩、構成/尾崎靖(小学館)
【サライ.jpで読める辰巳芳子さんの記事】