談/辰巳芳子(料理家)
人間がお酒を飲むということは、原初から、お酒の力を借りて体を養うという飲み方をしていたということでしょう。偶然、果物や穀物が発酵したぶどう酒やシードルを飲んでいい気分になったのかもしれません。
私の父は、さっぱりした酒の飲み方をする人でした。私もジメジメした酒の飲み方は大嫌い。やっぱり男にはお茶席で飲む程度の飲み方をしてほしいと思います。
父は「生ぬるいらっきょうなんか食べたくないよ。塩らっきょうとサンマの干物でいいんだ」という人でしたから、母は塩らっきょうをぶっかき氷に載せて食卓に並べていました。冷蔵庫から出来合いを出すのではなく、氷の上にらっきょうを並べる。柚子の時期は、父は庭の柚子の皮を一片、盃に浮かべて飲んでいました。
「酒の肴にお金をかけるんじゃないよ」と母は私に言っていましたが、こういうことは、わがままな心からは出てきません。そのような心意気のある人間にならないとね。自分のことでも国家のことでも、心意気というものは大切でしょう。
ちゃんと出汁をひいた味噌汁を飲み、麦飯を食べている人でないと心意気とか甲斐性は支えきれないかもしれないわね。食べるということをきちんと理解して食べていないと心意気が萎えちゃう。甲斐性とか心意気を胸に抱いている人間は、ちゃんと食べていると思いますよ。
私は、酒の肴の行き着くところは、心意気だと思っています。甲斐性というものが心と心が通い合う酒の肴になっていく。そこが飲み屋の酒の肴とは違うところ。この頃、私が心配しているのは、男の沽券が萎えちゃっていることです。みんな襟足の力が抜けちゃっているんだ。気をつけあって「お前、大丈夫か」と声を掛け合って自分を守っていかないとダメですね。男の酒肴は、男を守り、命を養ってくれます。
■これぞ男の酒肴!辰巳芳子さん推奨の「広尾のししゃも」
北海道広尾郡の漁師さんが獲ったししゃもを、株式会社広尾産業流通振興公社 という会社が冷凍便で届けてくれます。これも地元の心意気を感じます。ししゃもは、そのまま焼いて日本酒もいいけれど、私は素揚げして南蛮漬けや洋風のマリネーゼにします。素揚げしたししゃもを玉ねぎドレッシングでマリネーゼすれば、ワインにも合う酒の肴になります。
親潮と黒潮が混じり合う好条件の漁場、広尾町の漁師の肥えた舌で厳選した極上の北の味覚がこのししゃもです。冷凍便で届けてくれます。
【広尾町のししゃも問い合わせ先】
■電話: 01558-2-5570(広尾産業流通振興公社)
■ウェブサイト:http://www.hirooshunsenbin.com/(広尾旬鮮便)
辰巳芳子(たつみ・よしこ)
料理家。1924年生まれ。聖心女子学院卒業。家庭料理、家事差配の名手として今も語り継がれる母、辰巳浜子の傍らにあって料理とその姿勢を我がものとし、独自にフランス、イタリア、スペイン料理も学び、広い視野と深い洞察に基づいて、新聞、雑誌、テレビなどで日本 の食に提言しつづけている。 近年は、安全で良質の食材を次の世代に用意せねばとの思いから「大豆100粒運動」会長、「良 い食材を伝える会」会長、「確かな味を造る会」の最高顧問を務める。
撮影/小林庸浩、構成/尾崎靖(小学館)
【サライ.jpで読める辰巳芳子さんの記事】