斎藤道三に鉄砲の手ほどきをする明智光秀。

斎藤道三に鉄砲の手ほどきをする明智光秀。

ライターI(以下I):『麒麟がくる』って鉄砲の場面が多いですね。第5話では光秀が道三に鉄砲を伝授していました。

編集者A(以下A):ほぼ同時期に織田信長も橋本一巴から鉄砲を伝授されていたと『信長公記』に記されていますよね。

I:信長ももう少ししたら登場ですもんね。

A:第5話の物語冒頭に〈1548年 天文17年〉というクレジットが出ていました。この時期は、鉄砲がまだ実戦では使われていないはずです。光秀のセリフで〈玉くすりは美濃では手に入りません〉〈堺でしか手に入らない〉というのがありましたが、戦国武将たちがこぞって鉄砲を入手しようとするのはこの後です。

I:鉄砲時代前史、時代がダイナミックに転換する直前が描かれた場面ですね。なんだかわくわくします。

A:少し補足すると、火薬の原料となる硝石(しょうせき)は日本では手に入りません。〈堺でしか手に入らない〉というのは海外との交易で堺に入荷するということ。劇中、皆が躍起になって鉄砲を手に入れようと動いていました。鉄砲本体はもちろん火薬まで入手するには相応の経済力が必要だった。

I:そのことをいち早く小説で展開しているのが歴史作家の安部龍太郎さんなわけですよね。

A:『サライ』本誌で「半島をゆく」という紀行連載で全国の半島での取材に同行させてもらっています。さて、それで『麒麟がくる』 第5話なのですが、実は一抹の不安を覚えていたんです。

I:どういうことでしょう。「三好長慶が登場だ、細川晴元まででてくる! 三淵藤英まで出るのか!」 「松永久秀とどう絡むんだ? 将軍義輝も出るやん」って喜んでいましたよね。

A:そう。喜んでいました。でも冷静になって考えると、そういう面々の人間関係って意外とわかりづらいんですよ。そこをストレートに展開すると小難しい話になって視聴者がついていけなくなる。

I:そんなこと心配してたんですか?

A:将軍義輝が向井理さん、三淵藤英が谷原章介さん、細川藤孝が眞島秀和さん。イケメン俳優揃いなのも心配でした。とりあえずイケメンを出しておけばいいだろう的な。

I:・・・・・。で、実際に第5話を見て、どうだったんですか?

A:そう来たか! と快哉を叫びたい心境です。いい意味で裏切られました。小難しい鉄砲の話や人間関係をものすごくわかりやすく説明してくれてます。その舞台がなんと遊郭ですよ! 久方ぶりに良質なエンターテインメントに接した気分です。具体的にいうと、権謀術数渦巻く戦国の毛利家を描いた『毛利元就』(97年)の時に〈内館牧子さんの脚本すごい!〉と思って以来です。あの時も〈よくぞこんな小難しい話を面白くできるもんだ〉とうなりましたから。

I:今回の『麒麟がくる』でいうと、鉄砲鍛冶の伊平次のキャラがよかったんですね。

A:この伊平次のキャラはもちろん架空の人物なのですが、実際に当時こういう職人はいただろうと思わせるということでいえば、実在のキャラ同然の存在だと思うのです。いますよね、手先が器用なやんちゃな人間。

I:実際、卓越した技術を持った職人はあちこちから声がかかったんでしょうね。

●蹴鞠にも和歌にも抜きんでた細川藤孝

まだ荒れた都時代の本能寺門前で。

まだ荒れた都時代の本能寺門前で。

I:ほかに第5話で気になったところはありますか?

A:室町幕府第13代将軍・足利義輝が登場しました。脚本の池端俊策さんが、「『太平記』で初代将軍の足利尊氏を描いたので、室町幕府の最後も描きたかった」という趣旨の話をしていました。足利義輝は尊氏の仍孫(じょうそん)にあたります。

I:じょうそんって・・・・・。

A:孫の孫の孫の子です。尊氏を1世にすれば8世。直系7親等の続柄ですね。その足利義輝が、本能寺から出てきました。例によって京の都が荒れている様子でした。第4話で、本能寺は末寺の種子島を通じて鉄砲にかかわっているという話がありましたが、それは事実のようで、現代の本能寺のHPにも同じようなことが書かれていました。ドラマには出ていませんでしたが、この時期は僧兵を抱えていたんではないですかねえ・・・・・。ところで、実戦で鉄砲が使われて初めて死者が出たというのが記録されるのが、今回の舞台から2年後の話になります。

I:『言継卿記(ときつぐきょうき)』に書かれるんでしたっけ? まだ2年先になるのか・・・・・。私は、今回の荒れた都の本能寺が、やがて都が復興した風景でいずれ再登場するかと思うと、なんか文字通り〈大河〉を感じて切なくなりました。

A:本当にそうですよね。今回登場した面々は、時を経てそれぞれの人生を歩んでいく。そういえば、前回、織田信秀が〈京から公家衆がお見えになっておおせになるには、蹴鞠が上達すれば、京へ行っても田舎者とあなどられることはない。和歌が詠めればなおよろしいと〉といっていました。

I:ああ。その蹴鞠も和歌も両方抜きんでているのが、細川藤孝だっていうんですね。

A:そうです。後年、史実の光秀は和歌などに才能を発揮して、京都の公家らと互角に渡り合ったといいます。では、どこでその才能を磨いたのですか? というところがまだわかっていない。もしかしたら藤孝の影響なのかもしれません。

I:今後も今回登場している面々の群像劇が展開されると思いますが、今回の青春群像的な雰囲気を覚えておいてほしいですね。そうすると、やがてくるそれぞれの過酷な運命が、〈グッと感じる〉ものになると思います。

A:ワンスアポンアタイムなんとかって感じですかね。

どうにも憎めない豪放磊落な松永久秀。

どうにも憎めない豪放磊落な松永久秀。

 

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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