文/鈴木拓也

認知症の親との日々のコミュニケーションで疲れ果てないためのコツ|『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』

日本国内の認知症の患者数はいまや約500万人。社会の高齢化によって、その数はまだ増加することが見込まれている。今は元気そうな自分の親が、いつか認知症にかかってしまうことも十分ありうることだ。

もし、自分の親が認知症になったら、どう接していけばいいのだろうか?

そうした、介護とはまた別の家族の悩み、つまり認知症の親とのコミュニケーションに焦点を当てたのが、今回紹介する書籍『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』だ。

認知症の親の困った言動は、病気のせいだと頭ではわかっていても、それが続くとイラっとして、ついきつく当たってしまう。それで親は傷つき、自分も後悔するという負の循環を断ち切るコツが、本書ではケース別に網羅されている。

一読し、実践することで毎日のイライラや怒りが減り、自分の人生を前向きに生きる気力がわいてくるおすすめの1冊だ。今回は、本書に掲載されているコツを3つ紹介しよう。

■何度も同じことを聞かれたら

「明日はデイサービスに行く日?」や「迎えに来てくれるよね?」といった確認を何度もしてくる。ひどいときには、それが数分おきに続くことも。

これは、認知症の典型症状の1つである記憶障害のせい。ついさっき自分がした質問を完全に忘れてしまい、同じ質問をしてしまうのだが、当人にとっては初めてする質問だという自覚がある。

だから、「同じことばっかり聞かないでよ」などと声を荒げるのはNG。逆に、無言でため息をつくのも×だ。

こういう場合、聞いてくることは、たいてい「予定」に関すること。本人にとって大事なことであり、家族に迷惑をかけたくないという気持ちもあって聞いてくる。もちろん、聞かれるたびに「デイサービスは明日よ」などと答えていれば、答えるほうも疲れる。そこで、便利な対策がカレンダーの活用だ。

リビングなど目につくところに大きなカレンダーをかけ、そこに予定をすべて書き込むことをおすすめします。デイサービスの日、訪問介護のヘルパーさんが来る日、病院へ行く日など、カレンダーを見れば一目瞭然でわかるようにしておくのです。さらに日付が表示される時計をそばに置いておけば、今日は何月何日かもわかります。(本書34pより)

カレンダーのもう1つの良さは、視覚情報である点。「耳で聞いた情報よりも、目で見た情報」のほうが記憶に残りやすく、これは認知症患者でも同様。できるだけ目で見てもらうよう留意したい。

■キレやすく暴力に訴えようとするなら

大声で怒鳴るとか周囲の人に暴力をふるうなど、一部の認知症患者に見られる問題行動。「プライドを傷つけられた」ことが引き金になって、こうした行動が起こりやすいという。
認知症患者が「何もわからない」というのは大きな誤解で、悲しいとか腹が立つといった感情の記憶はしっかり残っている。そして、一症状として感情の抑制がきかなくなっているため、逆上しやすい。

これに対して、説得や正論でやりこめるのは逆効果。難しいと感じるかもしれないが、「こういうときこそ、ぜひ笑顔を心がけ」、相手を安心させるのが肝要。あるいは、その場を離れ、落ち着くのを待つとか「おやつを食べない?」と気をそらすのも手だ。くれぐれも、こちら側も険悪な顔つきになって、相手の怒りを増幅させないように注意しよう。

■家の中が散らかって片づけないなら

認知症の人の住む家が、どんどん散らかっていき、しまいにはゴミ屋敷と化してしまうこともある。

こうなってしまうのは、「重要な物と捨ててよい物を区別できなくなった」というのが大きい。当人には明らかに不要なダイレクトメールの類でも「捨てたらあとで困るかもしれないから、ひとまずとっておこう」となり、片づける気力の低下もあいまって、室内でゴミが山をなすことになる。

また、必要なものが目につく所にないと、どこに何があるかわからなくなってしまうというのもある。家族が勝手に片づけようとして、「さわらないで!」と抵抗するのは、目に見えないところにはしまわれたら、後で自分が困るとわかっているから。だから、単に「不潔でしょ」「全部捨てますよ」といった言葉は禁句だ。
かといって、そのままでは何かにつまずいて転倒する危険性もある。そこで、本書ですすめられている対策は、「気づかれないタイミングで不衛生な物やゴミを処分」、「『転ぶと大変だから、片づけよう』と説得」、あるいは「一緒に掃除しよう」と呼びかけ、当人にとって本当に大事な物を確認しながら保管してゆくというもの。どうやるにせよ、認知症になったら自己判断して物を減らすことは不可能になるので、いつかは家族が関与する必要が出てくる。

*  *  *

認知症患者は、とかく問題行動がクローズアップされがちだが、実は当人もつらい気持ちに苛まれている。その気持ちに気づき、寄り添った接し方を心がけることで、問題行動が不思議と落ち着いてくるという。そのための処方箋が本書にはたくさんある。できる範囲で、実行してみてはいかがだろうか。

【今日の親の健康に良い1冊】
『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』

https://www.nagaokashoten.co.jp/book/9784522437445/1

(榎本睦郎著、本体1100円+税、永岡書店)

『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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