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織田信長――本当は「オタ・ノブナガ」と読む説を追う【麒麟がくる 満喫リポート】

『麒麟がくる』で高橋克典が演じる織田信秀

文/安田清人(歴史書籍編集プロダクション・三猿舎代表)

『麒麟がくる』で美濃を巡って斎藤道三(演・本木雅弘)と戦いを繰り広げる織田信秀(演・高橋克典)。〈①幕府の将軍→②尾張守護→③守護代→④守護代家の奉行〉という室町幕府体制の中では4番手に過ぎなかった〈弾正忠家〉がなぜ、信秀・信長の代に至って勢力を伸ばすことができたのか? 『麒麟がくる』でどのように描かれるのかも注目ポイントのひとつだ。
信長の父・信秀は、天文12年(1543)には内裏(皇居)の修繕に4000貫もの巨費を献金していることで知られる。そのことを伝える『多門院日記』にはこう記されている。
〈内裏ノ四面ノ蓋ヲ尾張ノオタノ弾正ト云物進上〉。
ん? 〈尾張のオタ〉? オダの間違いでは?
元『歴史読本』編集者で現在、歴史書籍編集プロダクション『三猿舎』の代表を務める安田清人氏がリポートする。

「織田信長」と書いて何と読むか?

馬鹿にするなと怒られそうだが、さて本当にそうだろうか。「おだ・のぶなが」に決まってるだろう。大半の方はそう答えるだろう。
しかし、必ずしもそうとは言い切れないのだ。「信長」については問題ない。「のぶなが」と普通に読めばよい。問題は「織田」だ。

織田氏の出自については、平氏の末流だ、あるいは藤原氏の出だ、いや忌部氏だ——などなど諸説があるが、その発祥の地が越前国丹生郡織田荘(福井県越前町)であることはほぼ確実視されている。そして、織田氏の先祖は同地にある劔神社(織田劔神社)の神官だったとする見解が有力だ。

劔神社(織田劔神社)

信長自身も、この劔神社を氏神として崇敬していたとされていて、越前を平定した直後の天正元年(一五七三)には、家臣の木下祐久の書状に「殿様御氏神」と記している(『劔神社文書』)。
また、重臣で越前国の支配を任された柴田勝家は、「当社の儀は、殿様御氏神の儀候へば……」と書かれた文書(『劔神社文書』)を残している。劔神社は殿様=信長の氏神であると明言しているのだ。
少なくとも信長本人は、自分の祖先が織田から出たという認識をもっていたのだ。

この地域、以前は「織田町」という町名だったのだが、市町村合併で越前町と名を改め、「織田」は地区の名前として残っている。そして、その地区名にしても、地域の小中学校(織田小学校、織田中学校)の名前にしても、すべて「おた」読みなのだ。それだけではない、織田病院も、福井信用金庫の織田支店も、町立図書館の織田分館も、ぜんぶ「おた」。「おだ」と読ませる施設は寡聞にして知らない。

福井県の方にとっては「何をいまさら」「当たり前だろ」と言われてしまうかもしれないが、信長の先祖が暮らし、その名乗りの由来となったともいわれる土地では、「織田」は「おた」と、濁らない「清音」で読むのが当然なのだ。

もちろん、織田氏が歴史に登場してから信長の時代に至るまでには数百年の年月が経っている。その間に名前の読みが変わってしまう可能性はあるだろう。ルーツとなる地名と名前が絶対に一致していなければならないというわけでもない。

●やっぱり本当は「オタ・ノブナガ」ではないのか?

しかし、実はもう一つ、「織田」が「おた」であった可能性を示す史料がある。これは長く東京大学史料編纂所に勤め、現在は東京大学名誉教授で鯖江市の舟津神社宮司でもある橋本政宣氏の研究による。

江戸時代の寛永年間(1624~1645)に、幕府は『寛永諸家系譜伝』という系譜集を編纂した。大名から旗本に至る武家の出自や系図をまとめたもので、約170年後に幕府が編纂したもう一つの系譜集『寛政重修諸家譜』の先駆けとなったものだ。

この『寛永諸家系譜伝』には「仮名本」と「真名本」と二種類あり、「仮名本」には漢字にフリガナが振ってあり、「濁る・濁らない」の区別が明確になっている。大名・旗本の系譜集なので、織田信長やその一族に関する記述も非常に多い。
「織田信長」にフリガナが振ってある箇所は108か所。織田一族についてはフリガナが振ってあるのは80か所。合計で188か所にもなる。

そのなかで、信長の次男「織田信雄」を「をだ・のぶを」と読むただ一例を除いて、すべてフリガナは「ヲタ」と濁っていないのだ。

この『寛永諸家系譜伝』は、各大名家や旗本家に系譜資料を提出させて編纂したものなので、当然、自分の出自を良く見せよう、徳川家との関係が深かったことにしようという「意図」が反映されていて、すべてが信用できるわけではない。しかも、編纂されたのは信長の死後半世紀以上も後のことだ。

とはいえ、「おだ」をわざわざ「おた(ヲタ)」と読み替えることで、織田家の子孫が得をすることもなかろう。改竄の利益はない。とすれば、少なくとも織田家界隈では、自家を「おだ」ではなく「おた」と呼んでいたであろうことは、疑う余地はないのではないか。
「織田信長」は、「お『た』のぶなが」だった可能性が高いのだ。

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