苦悩する将軍足利義昭。滝藤賢一さんの魂の演技が光る。

終盤に向けて俳優陣の熱量溢れる演技が光る『麒麟がくる』。クライマックスの本能寺の変に向けて、キーマンのひとり、将軍足利義昭を演じる滝藤賢一さんに話を聞いた。

* * *

「義昭は非常にかわいそうな人物です。一生懸命になればなるほど、精神的バランスが崩れていってしまうんです」

大河ドラマ『麒麟がくる』で、滝藤賢一さんが自身が演じる室町幕府15代将軍足利義昭について感慨を漏らす。

滝藤さんが演じる足利義昭は、12代将軍足利義晴の次男で、兄は13代将軍義輝(演・向井理)だ。6歳で僧籍に入り、29歳まで覚慶として興福寺一乗院の門跡を務めていたが、兄義輝が永禄の変で、現職将軍のまま殺害されたことで、将軍に担ぎ上げられた人物だ。本来なら僧籍で一生を終えるはずの人生が、大きく流転することになった。

『麒麟がくる』では、慈悲深く繊細な僧侶の覚慶時代から義昭が描かれたことで、大河ファンをうならせた。

僧覚慶の頃から義昭が描かれたのは、大河ドラマとしては初めて。

「義昭は、武家の棟梁になれといわれて還俗しますが、心は僧侶のまま。それまで身の回りの人々しか救えなかったけれど、将軍になればもっと多くの人を救えると信じて、あえて神輿になることを受け入れたのかもしれませんね」

大和の国から脱出して将軍職を目指した義昭だが、越前一乗谷でいたずらに時を浪費するなど、順風満帆ではなかった。その義昭を救ったのが、織田信長(演・染谷将太)である。

信長に擁立されて上洛を果たした義昭だが、滞在する本圀寺で三好一党に襲撃される。『麒麟がくる』の中では、襲撃に対してブルブルと震える様を演じた滝藤さんの演技が、多くの視聴者に僧籍から将軍にまつりあげられた義昭の脆弱さを強く印象づけた。

本圀寺の変の後に、信長は将軍の居館として二条城を建造する。普請現場に信長を訪ねた義昭が、無邪気に信長に抱き着かんばかりに喜びを表す様子が描かれるなど、両者は表向きは蜜月関係を築く。しかし、その関係は長くは続かなかった。

蜜月から、不審を抱き、やがて怒りを発する。義昭は『麒麟がくる』の登場人物の中で、もっとも変化していく人物だと滝藤さんはいう。

「自分の意思ではなく将軍に担ぎ上げられ、襲撃を受けるなどいじめられ、意見をいっても無視され、志はあっても思い通りにならない。従来のドラマなどでは、将軍義昭は悪役のイメージだったと思いますが、『麒麟がくる』では、なぜこんな人になったのか、その部分を描いています」

身近な人しか救えない一僧侶だった立場から将軍となり、周りの武士たちの勢いに飲まれ、周りに引っ張られる形で義昭もどんどん力がみなぎってきているような演技を見せてくれている滝藤さん。「戦国のエネルギー」を演じていて感じるという。

「将軍になってからは怒り狂うシーンが増えるんですが、怒鳴りすぎて、視聴者の方もドキドキさせられるかもしれません(笑)。将軍に担ぎ上げられる前、義昭は自分が〈悟りを開いていない〉といったようなことを言っていました。その時はぴんとこなかったんですが、メンタルが崩れ始めた義昭を演じていて、ああ、なるほど、確かに悟りを開いていないな、と合点がいきましたね」

穏やかな僧の覚慶はもういない。この人はもう、救えない、と滝藤さんはもらした。自分も、周りの人も救えないことへのいら立ちを好演している。

将軍に就任したばかりの頃は、まだ武家の世界になじめずにいた義昭。

歴史に残る名シーンに注目!

そんな義昭の話を唯一、親身になって聞いてくれるのが、門脇麦さん演じる駒だと滝藤さんはいう。

「でも、駒は架空の人物なんですよね。だから、義昭の話を聞いてくれる人は実際には誰もいなかったのかもしれませんね」

滝藤さんの言葉に、義昭の悲痛の叫びが聞こえてくるような気がする。

駒が丸薬売りで得たお金で義昭に金銭的援助をするようになったのは、義昭が貧しい人を救うための施設を作りたいと言ったから。しかし、義昭も駒も、理想とはかけ離れた現実を突きつけられる。

「戦のない世にするために戦をするしかない」

『麒麟がくる』を通して光秀をはじめ様々な登場人物の口から、何度も発せられた言葉だ。日本史上、最も悲惨な時代だったと言われる戦国時代のリアルが、この言葉を通じて伝わってくる。

「第35話での駒とのシーンは、大河史に残る名シーンになるんじゃないかと自画自賛しています」

覚慶時代から将軍義昭はどう変わってしまったのか。滝藤さんの渾身の演技を比較しながら楽しめるのは、欠かさず視聴している人の特権だ。

滝藤さんは、後半の主演、長谷川博己さんのエネルギッシュな演技も要注目だという。

「とにかく舌戦がすごい。光秀を演じる長谷川さんの言葉による戦は、凄まじいものがあります。チャンバラではない、言葉のやり取りの中に戦国があるんです」

滝藤さん自身は、実はさほど歴史に詳しいわけではないそう。

「歴史に詳しいわけではないので、とにかく池端さんの脚本に則ってしっかり演じていくのが僕の仕事。とても見ごたえのある本(脚本)ですね。読み物としてもすごくおもしろいです」

信長包囲網の中心人物となっていく将軍義昭。滝藤さんの今後の演技からますます目が離せない。

誰のことも信頼できず、誰も自分の意見を聞かないことにいら立ち、怒りと悲しみを露にする哀れな将軍像を滝藤さんが好演する。

滝藤賢一(俳優・44歳)
昭和51年、愛知県生まれ。ドラマ、映画などで幅広く活躍。大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)では小松帯刀を演じた。『麒麟がくる』では、将軍足利義昭として織田信長(演・染谷将太)と対立する役どころだ。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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