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健康

死に至る場合も…「高齢者の社会的孤立」の深刻な現状

文/中村康宏

「社会的孤立」とは聞き慣れない言葉かもしれません。しかし、少子高齢化をはじめとする社会構造の変化が進むに連れて顕在化してきた問題として関心が高まっています。最近では、内閣府の「高齢社会白書」にも社会的孤立の問題が取り上げられ、大きな課題として認識され始めています。そこで今回は高齢者の社会的孤立の背景とその影響について解説します。

社会的孤立とは

「社会的孤立」は明確に定義されていません。それはどこからが孤立状態かという線引きが難しいのが理由です。一般に「家族やコミュニティとほとんど接触がないという客観的な状態」を指すことが多いとされています(*1)

端的に言うと、家族や友人、地域社会との関係が希薄で、他者との接触がほとんどない状態を指し、身体的に孤立している状態(一人暮らしをしている等)や主観的な孤立状態(寂しさ、孤独感)とは区別されることがポイントです。

社会的孤立による身体への影響

・病気になりやすくなる
高齢者の社会的孤立は、情報や資源の不足、周りからのサポート不足、自己効力感や自尊感情の低下などから不健康な生活に陥りやすいのです(*2)。実際に、多くの研究によって、身体的な障害、栄養状態の悪さ、身体活動量の乏しさ、健康度自己評価の低さ、健康関連 QOL (Quality Of Life:生活の質)の低さ、などとの関連が報告されています(*3)。さらに、糖尿病や高血圧になりやすいだけでなく、合併症を起こしやすくなります。

・尊厳や生きがいの喪失
健康でいるための7つのウェルネスには社会的なウェルネスが含まれます。人との交流は生活に楽しみや喜びをもたらします。内閣府の調査によると、高齢者全体では8割の人が生きがいを感じていますが、友人がいない人では 4割、近所づきあいのない人では6割にとどまっています(*5)。このことから、社会的孤立は、尊厳や生きがいなど外部から見えない高齢者の内面にも深刻な影響をもたらしていることを示しています。

・寝たきりになりやすい
寝たきりの前段階として「フレイル」があり、社会的に孤立した人は同居者の有無によらず生活機能が低下しやすくフレイルになりやすいことがわかっています。フレイルはストレスに対して抵抗力がなくなり、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態です。筋力低下により転倒しやすくなるだけでなく、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題をも引き起こします(*6)

・介護負担
介護において家族や介護サービス以外の人間関係が重要視されています。つまり、地域コミュニティや友人との繋がりが介護負担を軽減させる可能性が注目されています。

日本では、在宅介護サービス以外の介護者のケアはほとんど家族が行っているのが現状です。一方、海外では家族以外の人によるケアの割合は50%近くを占めます。それは、在宅介護サービスの他に泊まり込みで身の回りのケアをするサービスが多く存在することと、友人や近隣者による介護が一般的なことが挙げられます(*7)

日本では単身世帯が増加していく傾向にあり、家族の機能が一層低下していくことが予想されます。家族以外の人間関係をいかに高めていくのかという点が、重要になっていくと考えられます。

・孤独死
近年マスコミで取り上げられることのある「孤独死」の背景には社会的孤立が隠れていることがあります。病気や要介護状態に陥った時、家族や友人、近所の人などいざというときに支えてくれる人的ネットワークをもっていれば、定期的に接触をもつことで変化に気づかれやすく、孤独死を防止できます。政府は孤独死を、生存中の孤立状態が死によって表面化したものとしてとらえ、生きている間の孤立状態への対応を重要視しています(*4)

社会的孤立の予防

個人も社会も「社会的孤立」に目を向け対策を立てていく必要があります。

まず、個人の社会参加を維持することが必須です。高齢者の社会参加・社会貢献は具体的に、就労、ボランティア活動、自己啓発(趣味・学習・保健)活動、友人・隣人等との交流、デイサービス(通所介護サービス)利用、と幅広く存在します。これらのすべてにおいて、社会参加していることがその後の健康維持や生活機能低下を改善させることが示されています。これは、社会参加することにより、社会的な役割機能や知的能動性が維持・向上するからと考えられています(*8)

地域コミュニティが果たす役割も重要です。様々なコミュニティ、サークル活動、市町村の提供するサービスが存在しますが、高齢者のニーズと実際に求められる活動のミスマッチがあることが課題です(*6)。例えば、趣味や稽古のサービスを提供しても、万人が「やりたい」と思うわけではありませんので一つの施策で効果を期待できません。

日本の役人も大注目の海外コミュニティ・サービスの状況

お手本として、海外のコミュニティ・サービスをご紹介します。筆者が研究を行っていた「NORC-NYC (Normally Occuring Retirement Community in New York City)」という場所は、アクティブシニアでいるためのサービスが充実しており、日本の各都道府県・政府機関から毎週のように見学者が来る大注目の地域密着コミュニティなのです。太極拳、ヨガ、ディスカッション、歴史など様々なクラスに加え、映画上映会、昼食会などもあり、住民が好きな時に好きなサービスに参加できるようになっています。

このコミュニティ・サービスは社会的孤立を防ぐのにも重要な役割を持っています。筆者が調べたところ、社会的孤立の割合は全米平均の半分以下でした。さらに、糖尿病や高血圧、肥満といった病気の罹患率も少ない傾向にありました。

このように、日本でも地域コミュニティが果たす役割に期待が寄せられています。

以上、社会的孤立の影響とその予防について解説しました。単身世帯が増える中、社会的孤立も増えていくことが予想されます。病気の予防だけでなく、心理的・精神的に健康で生きるために、社会的孤立を予防することが重要視されています。社会的、職業的なウェルネスは社会的孤立の目安となります。健康を“ウェルネス”の7つの視点から捉え、ご自身の健康を日頃から評価するようにしてください。

【参考文献】
1.The Journal of Applied Gerontology 1994; 13: 58-72
2.New York: Oxford University Press 2000; 137-73
3.日本公衆衛生雑誌 2015; 62: 95-105
4.内閣府 高齢社会白書
5.内閣府 高齢者の地域社会への参加に関する意識調査
6.日本転倒予防学会誌 2017: 3; 11-6
7.OECD 2005
8.Arch Gerontol Geriatr 2003: 36; 141-53


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。未病治療・健康増進のための医療を提供している。

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