引退生活では、健康の問題は必ずついてくるもの。深刻で厄介な問題ですが、心身ともに健康でいることを期待するよりも、多少の不安があっても人生を楽しむ力を身につけるが勝ちというものです。
たとえば深刻な健康上の問題は、気持ちを落ち込ませ、生活を一変させることもありますが、どのように病気の不安に対応するのかが大きな分かれ道になります。
そこで必要とされるのが、心理学で言われる「レジリエンス(復元力)」、つまり不幸や苦痛に見舞われたときに、必要以上に落胆しない力です。
この「レジリエンス」能力が高ければ高いほど、不測の事態に遭遇しても、その中で最善の策を取り、うまく対応することができます。
今回は、シニア世代にこそ必要なこの「レジリエンス」について、米国カリフォルニア州立大学・心理学部教授のケネス・S・シュルツ氏監修の『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』(日経ナショナル ジオグラフィック社)を参考にお伝えしていきましょう。
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最近の研究では「レジリエンス」は生まれつきの性格というよりも、自分で学べて伸ばせるものだとわかってきました。では、どのような人が「レジリエンス」が高いといえるのでしょうか。
具体的な5つのポイントをご紹介します。
■1:苦境に対して客観的でいられる
苦難に振り回されるのではなく、過去の経験と比較し、冷静に、できる限り今の苦難に対処できる人です。
例えば膝が悪くて旅行を諦めてしまう前に、車椅子や杖を用意したり、できるだけ歩かなくて済む計画を立てて遂行するといった行動があてはまります。
■2:自分の可能性を最大化できる
最善の結果は何かがわかり、それを得るためにすべきことが分かっている人です。今できる範囲で自分の可能性を最大にできる人です。
例えば、日々の活動を続けるために、休憩を増やしたり、マッサージに通って体の調子を整えるといった行動があてはまります。
■3:社会的な役割を可能な限り続けられる
自分に喜びや充実を与えてくれる社会的な役割を、病気などによって悲観的になってやめてしまうのではなく、自分にとって必要なものと悟り、続けようとする人です。
最後の時まで社会性を持っていることは生きる糧になるはずです。
■4:“自分は不測の事態に対応できる人間である”という自信を持つ
自分なら状況をコントロールし、不測の事態にも怖じけずに立ち向かえるという確固たる自己像がある人です。ひ弱な犠牲者ではなく、戦う者として自分を捉えることができるということです。
■5:身近な人から支援を引き出せる
自分ができないことには援助を求めたり、一人で行きにくい目的地に行くために誰かに付き添ってもらうなど、目標達成のために、またこれまでと変わらない日常のために、身近な人から支援を引き出すのがうまい人です。
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いかがでしょうか? 例えば病気になったときには、この「レジリエンス」の力が道を開いてくれます。
前向きさに加えて、これまでの経験を生かした適切な対処については、年齢を重ねた人だからこそ成しうること。最後の日まで自分らしくいて、好きなことを諦めない姿勢は、周りの人たちにとっても「何があっても人生の展望を変えない人」という強い印象として残ることでしょう。
【参考文献】
『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』
(S・シュルツ監修、藤井留美 訳、日経ナショナル ジオグラフィック社)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/16/010500050/
文/庄司真紀