
『たなか』のかけ。
今から20年ほど前、練馬区豊玉の環状七号線沿いに『田中屋』という高級そば屋がありました。お客さんは車で駆け付け、そばを注文すると、わさびとおろし金が出てきて、そのわさびを下ろしながらそばを待ちました。
香り高いそばは申し分なかったのですが、「そば」の値段としては格別でしたので、滅多に出かけられませんでした。
その『田中屋』が閉店して、しばらくして、西東京市ひばりが丘に『たなか』が誕生しました。『田中屋』の主人、田中國安さんが自宅を改造し、お孫さんを仕込みながら開いたそば屋でした。
『たなか』は『田中屋』から一転して、ワンコイン(とちょっと)で美味しいそばが食べられる店となりました。

御膳せいろ。

玉子焼き。
そばの季節と言えば、秋冬でしたが、昨今、7月にもなると新そばが出まわるようになりました。私は『たなか』に行くと、冷たいもりをいただいてから、必ず、かけを注文します。
薬味の葱も何にも添えていない、シンプルをモットーとした潔い温かいそばです。
そばは温かいつゆの中では、香りは期待できませんが、そのつゆの味がまろやかで、深みがあって、夏でも心に沁みる一杯となります。おそらく、日本一の「かけそば」ではないでしょうか?
これで540円は申し訳ないです。
『たなか』は酒を置いていません。それでも、つまみには玉子焼きがあって、これがデザート代わりに最適です。

ご主人の田中國安さん、今年91歳です!(すきやばし次郎の小野二郎さんと同い年!)
【たなか】
住所/東京都西東京市ひばりが丘1-15-9
TEL/042-424-1882
営業時間/11:00~15:00(L.O.14:30)
定休日/火曜・第三水曜日(ただし、祝日の場合営業)
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。
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