江戸時代から続いてきた鮨、天ぷら、蕎麦、そして昭和の時代に発達した焼き鳥は東京の食文化。老舗から新店まで、足を運びたい店を紹介する。

わずか5席の空間で全てを委ねる心地よさ

鮨 真菜 湯島

ある日の握り1万5000円〜より。一番上は、茹でた車海老をヅケにしたもの。中にかませたミソは別に火を通している。ふたつ目は鮪の赤身。夏は脂が控えめで酸味がある。3つ目は鯵。塩だけで軽く締めている。4つ目は握りの最後に出るふっくらとした煮穴子。

『鮨 真菜』は、上野からほど近い湯島の駅からすぐ、大通りに面した場所にある。構えは控えめで、気付かず素通りしそうになるほど小さな店だ。カウンターに並ぶ椅子は、わずか5脚。ここに座り、主人の金井淳さん(46歳)に全てを委ねてゆったりと過ごしたい。

握りのおまかせは、烏賊や白身魚といった淡い味のものから始まり、小鰭や鮪といった江戸前定番の鮨種へと徐々に盛り上がっていく。金井さんはこう説明する。

「3種類の酢を使ったうちの酢飯は、見かけの色は濃いですが味はそれほど強くない。でもほどよいコクがあり、締めものや鮪には特に合うと思います」

仕入れや仕込みも全て金井さんがひとりで行ない、その中で生み出されたのが「車海老のヅケ」。ひとりだと、その場で茹でたての海老を出すことが難しくこの形になったというが、これが白眉の出来である。車海老のしっとりとした歯触りの中に染み込んだ淡い醤油の香りに、酢飯の酸味と塩味が合わさり、複雑で立体感のある味わいだ。

自身も酒好きという金井さんが厳選して揃えた日本酒は、品の良い薄いグラスで供される。これを傾けながら、鮨種をひとつひとつ、じっくりと堪能したくなる店である。

8品ほどのつまみが付くおまかせは2万3000円〜。夏に旨くなる鮑は5〜6時間蒸す。香りが
素晴らしい贅沢な一皿。
左は新潟・加茂錦の「荷札酒」赤磐雄町、右は秋田・齋彌酒造店の純米吟醸「角太」。日本酒は常時8〜10種類ほどを用意。一般には入手が難しいものも登場する。グラス1000円〜。

鮨 真菜

東京都文京区湯島3-46-6 TS天神下ビル1階
電話:03・6803・0190
営業時間:17時30分〜22時
定休日:不定 5席。

東京メトロ湯島駅から徒歩約1分、JR御徒町駅より徒歩約5分。上野公園の不忍池も近い。

※この記事は『サライ』本誌2023年9月号より転載しました。取材・文/浅妻千映子 撮影/浜村多恵

 

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