案内人 林家正蔵さん(落語家・60歳)
昭和53年、林家三平に入門、前座名「こぶ平」を名のる。昭和62年に真打昇進、平成17年に九代目・林家正蔵を襲名。祖父、七代目・正蔵、父、三平と3代続く真打は、落語界では初。著書に『四時から飲み』など。
鈴本演芸場で高座を務めたあとの林家正蔵さんに、上野の馴染みの場所を案内してもらった。上野に近い台東区根岸で育ち、上野公園では、父である初代・林家三平さんと自転車の練習をしたという正蔵さんである。幼い頃より自身の庭のように親しんできた上野について、正蔵さんはこう語る。
「高架下の呑み屋さんなんかにしても、どこか品のよさを感じます。浅草とよく比べられるのですが、あちらは気取らない雰囲気。寄席も浅草のお客さんはジャージで来ますが、上野のお客さんはズボンにポロシャツ。分かります?(笑)もちろん、どちらがいいということではありませんよ」
アメヤ横丁(アメ横)では、父の三平さんの時代からCMなどで付き合いのある『二木の菓子』に立ち寄る。「正蔵師匠はよくアメ横でお見かけします」というのは、同社専務の川村耕一さんだ。社長の二木正人(ふたつきまさと)さんに挨拶して、商店街の店先を覗きながら、居酒屋『たる松上野店』に向かう。正蔵さんは観光客が行き交うアメ横の通りに、すぐに馴染んでしまう。
約5000種類もの菓子が揃う。観光客で混み合う人気店
二木の菓子第一営業所
東京都台東区上野4-1-8
電話:03・3833・3911
営業時間:10時~20時
定休日:無休
JR御徒町駅北口より徒歩約2分
日常で必要なものが揃う街
「午前11時からやっているんですよ。休みの日は午前中に上野公園を散歩して、帰りにここで一杯というのがたまりません。歩いて帰れるので、地元ならではの安心感があります」
そう言いながら、一杯目を飲み干す正蔵さんである。昼飲みの極意を聞きながら、改めて上野の街の魅力を訊ねた。
「飲食、衣料、家電などの店がひと通り揃っているし、百貨店もある。映画も観られるし、上野公園に行けば音楽や美術などの芸術にも触れられる。一言でいえば“こと足りる”。日常で必要なことは、歩いて回れる上野ですべてこと足りてしまうんです。それが大きな魅力だと思います」
樽酒と全国の銘酒を提供 安くてうまい上野の名店
全国銘酒たる松上野店
東京都台東区上野6-8-10
電話:03・3835・1755
営業時間:11時~23時
定休日:年末年始
交通:JR上野駅広小路口より徒歩約3分 60席。
江戸時代から日本の演芸を支えてきた上野の老舗寄席
鈴本演芸場
東京都台東区上野2-7-12
電話:03・3834・5906
開場:昼の部:12時開場、12時30分開演~16時終演予定、
夜の部:16時30分開場、17時開演~20時15分終演予定
休館日:臨時休演あり
料金:3000~3500円
交通:JR上野駅広小路口、JR御徒町駅北口より徒歩約5分
林家正蔵さんが普段出演する鈴本演芸場の創業は安政4年(1857)、江戸時代から日本の演芸を支えてきた、当代きっての寄席である。開演は昼の部、夜の部と分かれ、それぞれ3時間余り落語や漫才、曲芸などの演芸をたっぷり楽しめる。通常は当日売りの自由席でも入場できるので、気軽に立ち寄って名人芸を堪能できる。
※この記事は『サライ』本誌2023年9月号より転載しました。撮影/藤田修平