文/晏生莉衣
世界中から多くの人々が訪れるTOKYO2020の開催が近づいてきました。楽しく有意義な国際交流が行われるよう願いを込めて、英語のトピックスや国際教養のエッセンスを紹介します。
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英語のスペルと発音には色々なルールがあります。前回レッスンでは、Reiwaが英語ならどのように発音するかを考えましたが、その中で、「音節中、母音が1つで最後にくると、長く伸ばして発音される」というルールを紹介しました。来日したトランプ大統領が「レィワー」と発音されたように、英語のネィティヴスピーカーならこのルールを習慣的に使って、Reiwaの最後のwaを「ワー」と長く発音するのが普通です。
アメリカやイギリスを始め、英語圏ではこうした発音とスペルの規則を学校で繰り返し練習して学びます。「あいうえお」は「あいうえお」としか発音しない日本語と違い、英語は単語のスペルの組み合わせによって発音が変わってくるという特性があるからです。日本語はひらがなが読めるようなれば、ひらがな書きの単語や文章はとりあえず読めるようになりますが、英語はabcd…とアルファベットを覚えても、それだけで英語の単語が読めるようにはなりません。ですから、子どもの頃からスペルと発音のルールを少しずつ学んで身につけていきます。
一つ一つの英単語をルールにしたがって発音するなんて、日本人にはハードルの高いと思えてしまうかもしれません。でも実は、たいていの人は、義務教育で英語を普通に学んでいれば、簡単な単語ならルールどおりにきちんと発音できています。
例えば、
・no
・go
・me
・we
など。声に出して読んでみてください。わかりやすくカタカナで表しますが、ノー、ゴ―、ミー、ウィーのように発音されたと思います。それですべて正解です。日頃からよく耳にする英単語なので、一度発音を教われば、小中学生でも「ノ」、「ゴ」などとローマ字読みにしてしまうことはあまりないでしょう。
では、なぜnoを「ノ」ではなく「ノー」と発音するのでしょうか。そんなことは考えたこともないという方が多いと思いますが、これは先に説明したように、noの母音はoひとつだけで最後にあるので長く伸ばして発音するというルールが使われているからなのです。例に出したその他の単語も同様です。
簡単すぎて物足りないかもしれませんので、少しレベルを上げてみましょう。2音節の単語で、例えばheroという単語はどうでしょうか。たいていの方は、「heroは英雄という意味で、ヒーローと発音する」とおわかりでしょう。これも同じスペルと発音のルールに則っています。説明すると、heroはheとroの2つの音節に分かれますが、最初の音節にはe、次の音節にはoと、それぞれ1つの母音が最後にあるので、どちらも長く伸ばして発音するというルールがあてはまり、「ヒーロー」となるのです。
違う形のスペルの例では、basic(ベーシック)のba、paper(ペーパー)のpaなどもこのルールに則って発音されています。英語圏の子どもたちは、こうしたルールを繰り返し勉強することで、込み入ったスペルでも自然と読めるようになっていきます。これに対して、日本人はなんとなく覚えて発音していることが多いのですが、本来、英語のスペルと発音はこのようにとても規則だっていることを、少しおわかり頂けたでしょうか。
気づかずに使っているルール
ではもう一つ、簡単なルールを紹介しましょう。さきほどの「音節中、母音が1つで最後にくると、長く伸ばして発音される」というルールとは対照的に、「音節中、母音が1つで子音が最後にくると、母音は短く発音される」というルールです。
ここで言う母音の短い発音とは、aとuはア、eはエ、iはイ、oはオというような発音になります。これは、前回触れた「フォニックス」(phonics)という英語の発音の学習法で使われている発音ルールと同じなので、英語教室などでは「フォニックス読み」と教えることもあります。英語の母音は発音は1つではなく、aはエィ、ア、eはイー、エなどというようにスペルの組み合わせによって発音が違ってくるので、こうしたルールが登場するわけです。
例を挙げますので、ここでもまた、声に出して単語を読んでみてください。
・cat (ネコ)
・red(赤い)
・big(大きい)
・song(歌)
・sun(太陽)
それぞれの単語の最後はt, d, g, nと子音で終わっていて、読んでみると、キャット、レッド、ビッグ、ソング、サンというように、母音を短く発音していることに気づかれましたか? これらも耳慣れた単語なので、英語のルールを知らなくても正しく発音できているはずです。songはわかりやすい例で、長く伸ばして「ソーング」と間違った発音をすることはまれでしょう。ルールとして説明されるとわかりにくいですが、実際に発音すればとても簡単ですね。
2つのルールを学びましたが、両方が関連づいている場合もあります。例えば、最初のルールでnoは「ノー」と長く発音しましたが、notという副詞になると子音で終わる単語になりますから、2番目のルールが使われてoは短い発音に変わります。こうした発音の違いも、日本人は知らず知らずのうちに使い分けているものですが、スペルと発音のルールを知っていれば、以上のように説明することができます。
ただし、ルールには必ずといっていいほど例外がありますから、万能ではありません。例外は例外として覚える必要があります。また、ギリシア語やラテン語が語源のものや、外国語が英語化しているものには基本的にあてはまりません。たとえば、drama(ドラマ)は最後の音節のmaが1つの母音のaで終わっているので、「母音を伸ばす」という最初のルールにあてはまりそうな単語ですが、「ドラマー」と最後を長く伸ばして発音しないですね。これはdramaがギリシア語、ラテン語由来の単語だからで、他にもdata, visa, plaza, delta, aromaなど、aで終わる単語の多くは同様の例外になります。(ギリシア語、ラテン語の歴史はレッスン20を参照下さい。)これらはほんの一例で、ルールの数だけ例外もあるという感じですが、整理すればそれほどむずかしいものではありません。
なにげなく発音している英語ですが、実は色々なルールがあって、教わると「なるほど」と納得がいくことが多いものです。そして、ローマ字読みにして間違った発音をしてしまう子どもには、こうしたルールを教えてあげると英語を学ぶ助けになります。大人にも子どもにも役に立つ、英語のスペルと発音の基本的なルールを、次回も引き続き、紹介したいと思います。
文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事。途上国支援や国際教育に関するアドバイザリー、平和構築関連の研究等を行っている。